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弥生は自分の分まであるとは思わなかったようで、目をぱちぱちとして驚いた様子でプレートを見つめていた。けれど、ハッとしてふいと視線を逸らすと、「し、仕方ないな」と言いながら運ぶのを手伝ってくれるようだ。
弥生って、分かりやすいタイプなのね。
思わずくすりと笑いながら、私も残りのプレートを持って居間へと戻ることにした。弥生の肩に乗っているしらたまたちにも「コレ、タベタイ」とせがまれたのは言わずもがな。もちろん、しらたまたちの分も用意していると伝えれば、ぴょんぴょんと大喜びされ、ほっこりする。けれど──。
「…………」
居間に戻れば、しーんと静まり返っており、場の空気がものすごく悪いことが伝わってきた。私たちが戻るやいなや、美鶴さんが助けて!と言わんばかりの悲壮な顔で見つめてきて、和やか歓談作戦は失敗に終わったのだと悟る。ピリピリとしている稚日女尊様と、オロオロする信さんとの間で、さぞ居づらかったことだろう。
と、そのとき、稚日女尊様がすくっと立ち上がり、「やはり、わらわは帰る」と言った。顔を俯かせ、隣を通って立ち去ろうとするのを私がとっさに引き留めようとしたのだが──。
「稚日女尊様、お待ちください!」
その前に稚日女尊様を引き留めたのは信さんだった。信さんが叫んだ瞬間、稚日女尊様の動きがぴたりと止まる。
「……どうか私の話を、聞いてください。稚日女尊様」
信さんの言葉に、稚日女尊様は何も返事をしなかった。俯く信さん。けれど、意を決した様子で顔を上げると、「貴女が、近頃思い悩んでおられることを、私や凪も存じていました」と、自分よりも小さな背中に語りかけた。
「……時折、本殿の柱に腰かけては空を見上げる貴女の横顔は、ずっと憂いを帯びていた。貴女が神力が衰えていると嘆いておられることに、我々は気づいておりました。けれど、貴女はそれを私たちの前では一度も口にせず、いつも朗らかに明るく笑い、そんな悩みなど嘘のような顔をして、私たちに接してくれていました」




