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稚日女尊様は、はあとため息をつくと、その美しい黒曜石のような瞳を私の方へと向けてきた。


「……あかね、これはどういうことじゃ?」


その瞳の奥には威厳溢れる神らしい鋭さがあり、私は思わず手のひらをギュッと握りしめた。けれど、こちらの様子を不安そうに見つめる信さんと目が合うと、意を決して前を見る。


「先ほどもお話した通り、今日は稚日女尊様に召し上がっていただきたいものがあって、お招きさせていただきました」


緊張しつつも、できるだけ場が和むようにと笑顔を浮かべてそう言った。


「わらわにか?」

「ええ、稚日女尊様にぜひ」


それから稚日女尊様と美鶴さん、信さんには居間で座って待ってもらうことにして、私は台所へ向かう。その後ろには、両肩にしらたまを乗せた弥生も一緒である。


「おい、本当に大丈夫なのか?なんだか、あの女神様ぴりぴりしてるけど」

「今、美鶴さんがなんとか場を和やかにしようと奮闘してくれているはずだから」

「めちゃくちゃ修羅場みたいな雰囲気だったぞ、あの女神様と神使」

「それは、確かにそうだけど……」


信用ならない、みたいな空気を出しながらも何だかんだついてくる弥生。私は冷蔵庫から用意していたものを取り出し、プレートの上に乗せていく。


『弥生は弥生なりに、貴女と関わろうとしたのかもしれませんね』


時景様にそう言われたことを思い出す。何かと敵対心を持たれてつっかかってくる男だけど、それでも人間である私を無視したりなんかしない。それは、この旅館の中で異質な私にとってありがたいことなのだと気づく。


私はぐっと両手に力をこめ、弥生の方を振り返った。


「弥生は、お皿運ぶの手伝ってくれない?」


すると「は?なんで俺が」とすかさず返ってきたけれど、「弥生の分もあるから、ほら」と言って強引にプレートを渡す。

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