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「ってなんで、アンタがここにいるのよ!」
意気揚々と部屋へ戻ってきた私を出迎えたのは、先ほど湯泉神社で出会った金髪男だった。男はわがもの顔で、部屋に備え付けのお茶を飲んでいて「遅かったですね」とさもそこにいるのが当然かのような振る舞いである。
「ちょっと、もう『つきまとわないで』って言ったじゃない!」
「風情ある温泉旅館で、そのように声を上げるものではありません。いいから、とりあえず中に入って座ったらどうです?」
「いや、ここの部屋の主、私なんですけど!」
着物姿がやけに部屋になじんでいるのがなんだか癪だ。とはいえ、部屋の前で騒ぐのも確かに迷惑なので、仕方なく扉を閉めた私は中に入ることに。人ではないとはいえ、相手は男。十分に距離を取って座ると、威嚇するように男を睨みつけた。
「……で、何しに来たの」
あからさまに警戒心丸出しな私に、男はふと笑みを深めた。
「そんなに警戒しなくとも取って喰ったりしませんよ」
「それが正しいと判断できるほど、私はまだあなたのことをよく知らないわ」
畳みかけるようにそう告げると、男は目をキョトキョトさせたあと「確かに、それもそうですね」と呟いた。そして、ゴホンと口元に手をやり、改まる。
「自己紹介が遅れました。私は、この有馬の地で『縁の坊』という旅館の大旦那を務める、金狐の時景と申します」
時景と名乗った男は胸に手を当てながら、そう説明をした。
上品な所作に、場の空気が澄んでいくような清らかさ。背景に花を背負っていそうな華やかさを放つ男に、私はただ者ではない何かを感じ、思わず手のひらを強く握りしめた。




