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その言葉に、「そうでしょうか」と首を傾げる。私にいい印象を持っているというよりは、ライバル心剥きだしでバチバチな感じでしたけど……。
「まあ、彼も不器用なあやかしですから」
くすくすと笑う時景様は、なんだか楽しそうに見えた。私は何だかよく分からないながらも「はあ」と返事をしておく。それからひとまず、台の上を片付けようと丸椅子から立ち上がろうとした瞬間──。
「……今度お酒を飲むときは、私を誘ってくださいよ」
時景様の声が耳元のすぐ近くで聞こえ、びくりと体が震える。ふと視線をずらせば、私を囲うようにして台に両手をついている時景様。はつみつのような甘やかな声を間近で聞くのは心臓が悪い。
「ちょ、ちょっと近いです……っ!」
「約束してくれたら離れます」
無駄に顔がいいのは反則だ。金髪の髪がさらりと流れ、私の頬にかかってくすぐったい。それくらい近くにいるのだと意識すると、より一層ドキドキと胸がうるさく鳴る。
「わ、分かりましたから離れてください……っ!」
時景様から視線を逸らして、ぐいとその体を押せばまたもやくすくすと楽しそうな声が返ってくる。そんな姿さえ品があって、絵になるから男前は罪だなと、しみじみ思った。
「もう、からかわないでくださいよ……!」
照れくさくなってふいと視線を逸らした私。向けられる優しげな眼差しも、なんだか心が落ち着かなかった。
それから時景様と開発中のメニューのことや、稚日女尊様のことを少し話した後、飲み潰れてしまった弥生は時景様が連れて行ってくれることとなり、私はスイーツ作りを再開した。ご縁がないと嘆き、憂いていた女神様と、自分は何も出来ないと悔いていた不器用な従者のことを思いながら──。




