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弥生は側にあった丸椅子に腰かけ、台の上に突っ伏すこととなった。頬を赤らめて、棘がなくなったように、ふにゃふにゃとしている姿は、先ほどまでのツンツンした態度とは大違い。私は向かいの椅子に腰かけて、その様子をじろじろと観察していた。
「なんで、お前は顔色ひとつかわらねぇんだよ……」
「だから飲めるって言ったじゃない」
啖呵を切ってくるものだから、もう少し飲める口かと思ったら想像以上にお酒が弱くて驚いた。よほど、私が飲めない人間だと踏んでいたのだろうか。非番だからよかったものの、勤務中だと怒られるやつじゃない、とため息をつく。最初の方は味の感想が聞けたから、私も参考になったけど……・。
「弥生は何してるんですか、こんなところで」
と、そのとき、入口の方を見遣ると両手を組んで苦笑する時景様がいた。
「時景様!」
驚く私をよそに時景様は厨房の中へと入ってきて、台に突っ伏す弥生に近づいた。
「ときかげさま……すみません……」
何だかしおらしく謝った弥生は、そのまますーぴーと寝息を立てて眠ってしまったようだった。「まったく」と呆れたように笑いながらも弥生の頭をひと撫でした後、今度は私の方を向いた時景様。そして、ぐいとその端麗な顔を近づけられ、私は思わずびくりとなる。
「こんなに酔わせて、弥生をどうするつもりだったのです?」
にこりと面白そうに笑う時景様だが、その誤解はやめてもらいたい。
「どうするつもりもなかったですよ……っ!新メニューの開発にと日本酒の飲み比べをしようと思ったら、どっちがお酒が強いかみたいな話になって」
すると、クスクスと笑いながら「弥生はお酒が強い方ではないのですがね」と言う時景様。それは私も今しがた、知った事実である。
「……まあ、弥生は弥生なりに、貴女と関わろうとしたのかもしれませんね。この前の小夜の一件について話したら、『あの人間がそんなことを』と驚いていましたから」




