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人々の信仰心が薄れてきている。それは確かにそうかもしれなかった。私自身は御朱印集めという趣味があるおかげで、いろいろな土地の神社に足を運ぶことが多いけれど、神社に行くのは初詣のときだけ、という友人も少なくない。
「人間の信仰心が、神様の神力に影響するだなんて、私知りませんでした……」
私の言葉に信さんは慌てた様子で「だ、だからと言って、人の子らを決して責めているのではありません!」と首を振る。強面そうなあやかしだけれど、その心根はとても優しそうで、私の頬がふと緩んだ。
「でも、確かに稚日女尊様が元気がないまま、というのも嫌ですよね。長くお仕えしてきた信さんだったら、なおさら」
「はい。ですが、会って話をしてみても昨夜のように追い返されるだけですし……」
がくりと項垂れる信さん。頭の耳も一緒にしょぼんとなっていて、何だかかわいいと思ったのは内緒である。
「稚日女尊様の好きなものって、何かないですか……?食べ物とか、趣味とか」
「好きなもの、ですか……?最近は灘五郷の日本酒ばかり飲まれていますが」
腕組みをして考え込む信さんに、昨日と一昨日の出来事を思い出して、まあお酒は大好きなんだろうなと苦笑する。信さんはしばらく悩んだ後、「あ」と何かを思いついたように手をぽんと打った。
「稚日女尊様は甘味もお好きです。疲れたときによく甘いものを召し上がっておられました」
「甘いものですか!」
となれば、私にもお手伝いできることがありそうだ。新メニュー開発に役立つ何かが得られるかもしれない。
「信さん、少しお尋ねしたいのですが──」
前のめりに詰め寄る私に、信さんは目をぱちぱちとさせながら首を傾げていたのだった。




