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「ひぃぃ!!お化け……っ!」


有名なホラー映画のように、地面に這いつくばる長い髪の女の人と突然遭遇したことによって私の頭は軽くパニックに陥った。長い髪で顔もよく見えなかったのも怖さを増長させたのかもしれない。けれど、「きもちわるい」と口を押え始めた彼女にハッとなり、慌てて側に駆け寄った。


「だ、大丈夫ですか……っ!」


近づくと、長い髪の間から覗く瞳と目が合う。月明りに照らされたその瞳は、黒曜石のように綺麗だった……のだけれども。


「も、もうだめじゃ……吐きそ……」


と口を両手で押さえだす彼女に「ええっ!」となる。近くにいると、お酒の匂いがぷんぷんしているところを見るに、どうやら彼女は飲みすぎでこうなったのだと推察した。


「すぐそこに私の部屋がありますけど、歩けますか?」


私がそう尋ねると、彼女は小さく頷きながら「厠までつれていってくれ」と頼んできた。このまま酔っ払いを放っておくわけにもいかない。私は彼女の手を取ると、片腕を自分の首に回して起き上がるのを手伝ってやり、部屋へ運ぶことにした。


よく見ると彼女が着ているのは薄桃色の上等な着物だった。従業員ではなさそうなので、縁の坊に泊まりに来たお客様の一人かもしれない。歩いてすぐのところにあった離れに到着すると、「着きましたよ」と声をかけ、私は彼女を部屋の中へと招き入れた。


それからしらたまたちに声をかけ、布団や着替えの用意を頼む。あと、時景様か氷雨さんへの連絡も。


「これ食べていいから」と渡したスイーツが入ったタッパーに大喜びの彼らは、それをえっさほいさと運びながら、散り散りになって駆けていく。頼もしいお手伝いの存在にほっと息をつきつつも、私は「きもちわるい」と真っ青な顔をして項垂れる彼女を、部屋の奥へと連れて行くことにした。

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