2
有馬温泉にある湯泉神社で、縁の坊の大旦那を務める時景様と出会ったことをきっかけに、私はこの旅館のパティシエとして働くことになった。
もともとは製菓の専門学校を出て、卒業後は有名パティスリーで修行すべく働いていた私だけれど、多忙な日々とパワハラによって心がぽきんと折れてしまい、あっけなく夢を諦めた。
職を転々とするフリーター生活。私の人生、これでいいのかな……。そう思っていたときに出会ったのが、時景様。彼の熱心な勧誘によって、私は再びパティシエへの道を歩むことになったのだった。
『あかねが作ったすいーつ、私は好きですよ』
パティシエとしての経験が不十分な私に、そう言ってくれた彼のためにも、私はこの旅館にふさわしいスイーツを作らなければ、と思っている。
季節の会席料理に合わせた、季節の素材を使ったスイーツ。
過去に自分で作った古いオリジナルレシピも引っ張り出して、今はいろいろと試作品を作っている最中だった。大変な仕事といえば、そうには違いない。けれど、ようやく自分の好きだったことを仕事にできている今は、私にとって楽しい時間でもあった。
「大人数のお客さんが来ることも想定して、盛り付けのことも考えなくちゃ」
まかない飯を食べながらふと思いついたことは、すべてノートに忘れないようにとメモをする。菓子作り用の厨房には私一人しかいなかったけれど、どこか弾んだ気持ちで一心にノートにペンを走らせた。




