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「ほら、人間!昼のまかない飯だ、ありがたく受け取れ!」
麗らかな春の日差しが心地よいある日の昼下がり、今日も厨房でメニュー開発に勤しんでいた私のもとにやってきたのは、「縁の坊」で料理長を務めるとめ吉さんの部下であるひょっとこ2人だった。
あからさまに向けられる敵意に最初はびくびくしていた私だけれど、なんというかもう慣れたというか……。そうなってしまったのは、彼らの人となりのせいかもしれなかった。
「毎度ありがとうございます。今朝のだし巻き玉子もおだしの塩梅がちょうどいい具合で、とっても美味しかったです。ごちそうさまでした」
私が朝に受け取った空の弁当を返すと、青い手ぬぐいを巻いた源さんはふいと視線を逸らしつつ私の手から弁当をぶん取った。
「そ、そ、そんなに褒めたって俺らも料理長も新入りの人間が厨房に立つのを認めたりしないからな!」
一方、隣にいるもう一人の渦巻き模様の手ぬぐいを巻いた貫太さんも配達用の荷車の持ち手をばんばんと叩きながら「そうだぞ!」と叫んでいる。
「い、い、いくら自分が担当した弁当を毎回ごちそうさまですって綺麗に完食されて、どこがどう美味しいかの感想もらえるからって、俺たちがそう簡単に人間のお前に絆されるわけないからな!」
従業員にまかない弁当を配る担当の彼らは、私が美味しかったと伝えると、いつもこんな調子なのである。嬉しそうな様子が隠しきれておらず、なんというか分かりやすい性格の二人に、きっと悪い人たちではないのだろうと思う。
「それ食ったら、とっとと仕事に戻れ!」
言葉だけ聞くと当たりが強く感じるけれど、言葉と行動がちぐはぐで何だか肩の力がふと抜ける。「ありがたくいただきます~」と二人を見送ると、私は厨房の片隅にある丸椅子を引っ張ってきて、それに腰かけた。
「二人が言う通り、昼休憩したら再開するか……」
もうすぐ約束の2週間。私は、この旅館にふさわしいスイーツを作るべく連日洋菓子作りに勤しんでいたのだった。




