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その瞬間、びくぅぅ!と体を震わせたしらたまたちが慌てて四方八方に逃げていく。けれど、時景様が「逃げずともあなたたちに危害は加えませんよ」と、にこやかに笑いながらそう言うと、物陰からそろりそろりと顔を出すしらたまたち。
「よかったら、こちらのぷちシュークリームをどうぞ。あかねちゃんが作ってくれたものですよ」
今度は彼らに美鶴さんが優しく微笑み、お盆を差し出せば、しらたまたちの目がきらりと煌めいた。なんというか、単純な子たちだ。しらたまたちはぱぁと瞳を輝かせながら、シュークリームに飛びつこうと近づいてきた。けれど、その瞬間──。
「わぁ!」
辺りにぶんと一陣の風が吹いて、しらたまたちが吹き飛ばされる。小夜だ。
「ちょっと小夜、邪魔しないでよ!せっかくしらたまたちに食べさせてあげようと思って持ってきてもらったのに」
そう言えば、また小夜が怒ったようにぶわりと風が吹く。けれど、私は諦めずに「ねえ、小夜」と呼びかけた。
「……それに、小夜。あなたにも食べてほしくて、私はこのシュークリームを作ったのよ」
私の言葉に、ぴたりと風が止む。
「私、あなたが小さい頃の夢を見たの……。病気がちで、いつも布団に臥せっていて。元気になったら、家族みんなで食べようねってお母さんと約束してたものがあるでしょう?」
時景様も、美鶴さんも側で、黙って聞いていてくれる。しらたまたちは不安げな顔をして、私のことを見つめていた。
「あなたに、ちょっとの間私の体を貸してあげる。だから、あなたの友達の、しらたまたちと一緒に……私の作ったシュークリーム、食べてくれない?」
両手を広げて、見えない相手にそう投げかけた。我ながら無茶な真似をしている自覚はある。実際、この提案をしたときに時景様や美鶴さんにも心配された。けれど、私は──。
しばしの沈黙が広がって、やっぱり無謀なことだったかと思いかけた、その瞬間、ぶわりと強い風が吹いたかと思うと、私の意識はぷつりとそこで途絶えてしまった。




