16
仕事終わり、風呂上がりに、ぶわりと風が吹いてせっかく温まった体を冷やされる。
夜、布団に入って寝ようとしたとき、ぶんぶんと風が吹く音が聞こえて睡眠を邪魔される。
朝、髪を整えているときに、ぶわりと風が吹いて綺麗にセットしたポニーテールが乱される……。
「ちょっと、それやめてくれない?!」
これから仕事だというのに、朝から大声で叫ぶ羽目になったのは以前しらたまたちが言っていた「小夜」のせいだった。姿は見えないけれど、狙ったかのように吹く突風は間違いなく彼女である。ちなみに先日見かけたしらたまたちは物陰に隠れながら、私の様子を心配そうに見つめていた。
「……新人の分際で文句なんて言ってられないから、私はこの離れを出ていくわけにはいかないの。お願いだから、そういう地味にじわじわ来る嫌がらせ、やめてくれない……?」
こちらが下手に出て頼んでみると、途端にしんと部屋の中が静まり返った。これは、もしや私のお願いが聞いてもらったってことかしら。そう思って、ほっと息をついた途端。
「わあ……!」
再び吹いた突風に髪がボサボサになった私は、わなわなと体を震わせながら拳を握りしめた。
「わかったわ!そっちがそんな態度を取るのなら、時景様に除霊してもらおうじゃないの!」
姿も見えぬ幽霊に向かって私がそう叫ぶと、「できるものならやってみろ」と言わんばかりに、もう一度風が吹き、私は乱れる髪をそのままに前掛けとたすきを手に取って自分の部屋を出ていった。




