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「人の子だというのに……貴女、やはり私の姿が見えるのですね」
と言われ、ハッとした。
墓穴を掘った……!
内心あわあわとしていると、男は興味深そうに目を細めてこちらを見つめてくるものだから、私はため息をついて諦めた。
「……子どもの頃からね。そのおかげで、随分まわりからは変人扱いされたけど」
「なるほど、特異体質ですか」
「そういうこと」
男が言うように、私には昔から「あやかし」と呼ばれる人ではない存在を見ることができた。祖母も同じ体質だったらしく、「こちらが何かしなければ悪さをしてくることもない」など、あやかしたちの対処法については、いろいろと言い聞かせられてきたものだ。
だから、大人に近づくにつれ、あやかしを見かけても基本的に無視。知らないふりをして過ごしてきた。
「やはり間違いなさそうだ……」
そんななか男は私の話を聞いているのか、いないのか、クンクンと鼻を近づけて私の匂いを嗅いでくる。「何?!」と私がギョッとしていると、男は「甘い香りがしますね」と平然と言ってのけた。
「ちょっとやだ、せ、セクハラっ……!」
と、そこで私が叫んだのは至極真っ当だと思う。「イケメンだからって何しても許されるわけじゃないのよ!」と続けると、男はハッとし、頬を赤らめ慌てた様子で、「べ、別にそんなつもりは!」だなんて言い訳をしている。なんだ無自覚だったのか。
「ただ、貴女から菓子のいい香りが──」
そう言われて私は目をパチパチとさせて後、「ああ」と背負っていたリュックを下ろして中からジップロックに入ったスコーンを取り出した。自宅で作り、お腹が空いたときに食べようと思っていたものだ。
「菓子って、これのこと……?」
首を傾げながらそう尋ねると、男は翡翠色の瞳をキラキラと輝かせながら「なんと美味たる香り……!」と、興奮している様子。何の変哲もないスコーンを前に、一体どうしたって言うのかしら。
「ただのシンプルなスコーンよ?」
「いいえ、私には分かります……!これはさぞがし美味しい菓子に違いありません!」
思いがけない反応に戸惑いを感じながらも、自分の作ったスコーンをそんなふうに言ってもらえて、私はちょっとだけ嬉しくなる。




