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◇◇◇
「ただいま~……」
誰もいないと分かっていながらも「ただいま」と言ってしまうのは、長年の一人暮らしで染みついたクセだった。玄関の土間で靴を脱いで灯りをつける。古い建物なので多少すき間風があるのか、日が暮れてくると少しひんやりとしているが、無料で住まわせてもらっているんだ。文句は言えない。
「はぁ~……疲れたけど、やっぱりスイーツづくりは楽しいな」
だなんて独り言を言いながら居間へ向かい、私はちゃぶ台の上にシュークリームが入ったタッパーを置いた。家に帰ってきたら、まずは手荒いうがい、それから部屋着に着替えてリラックスモードにならないと。
私は寝室にあるモコモコのルームウェアに着替えると、また居間に戻った。夜のまかないも食べたけれど、少し小腹が空いたのでシュークリームでもつまもうと思ったのだ。
「え」
ところが、ちゃぶ台の上を見てみるも、しっかりフタをしていたはずのタッパーが開いていて、私が食べようと思っていたシュークリームが忽然と消えていた。
「う、嘘!どうして、さっきまでここにあったのに?!」
慌ててタッパーを手に取ってみるも、やっぱりタッパーの中は空っぽ。そういえば今朝も私がとっておいたはずの大福がなくなっていたっけ。
どういうこと、とキョロキョロと辺りを見渡してみる。もしや、この離れに誰かいるのだろうか、と思うと何だか急に怖くなり、私は自分の体をぎゅっと抱きしめた。
「や、やだ……。誰か、いるの~……」
びくびくしながら廊下を覗き込むと、床の上に黄色の液体が落ちているのを見つけた。しゃがんでそれを指に取れば、甘い香りがする。
これってカスタードクリーム……?
廊下の先を見れば、ところどころクリームが点々と落ちている。
「どういうこと……?」
不思議に思って跡をたどっていく。怖さもあったけれど、このままこの問題を放置して安眠できるとは到底思えない。私の健やかな睡眠のためにも犯人を突き止めなくては。そう思ってドキドキしながら廊下の角を曲がったところ……。
「ムニャムニャ……コレ、オイシイ」
「ムニャムニャ……アマイノスキ」
「ムニャムニャ……トロケル……!」
そこには、モフモフとした白い物体がたくさんいた。みんなでムニャムニャと言いながら私のシュークリームを食べているようだった。もしや、あやかしの仲間かしら……?
「ちょっと、アンタたち!」
食べるのに夢中で全く私に気づく気配のないモフモフたちに、後ろから声を掛ければ、びくっっ!と稲妻が走ったように体を震わせながら一斉にこちらを向いた彼ら。




