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「あら、いい香り」


私がせっせとシュークリーム作りに勤しんでいると、美鶴さんがひょこりと入口から顔を覗かせた。先日のスパルタ指導のときとは打って変わって、にこやかな笑顔にマイナスイオンが出ているような癒しオーラを纏っての登場に、心がほっこりと癒される。


「美鶴さん、お疲れ様です」

「お疲れ様、あかねちゃん。これは何の甘味なの?」


興味深々で入ってきた美鶴さんは中のカスタードクリームを作っている私の手元、ワクワクとした様子で覗き込んできた。


「これは『カスタードクリーム』といって、卵と牛乳、砂糖、薄力粉で作った甘いクリームですよ。いろいろな洋菓子に使われるもので、いまはシュークリーム用に作っているところで」

「へぇ~、食べたことはないけれど、甘い香りだけでとっても美味しそうね」


私が舐めてみます?とスプーンに取って差し出すと、「いいの?!」と瞳を煌めかせる美鶴さん。「どうぞ」と手渡せば、香りを嗅いだ後、ぱくりと一口で食べる。


「んん!甘くて美味しい」


ぱぁと花が開いたように笑う美鶴さんに、でしょう?と私も笑みを溢す。


「実は氷雨さんからシュークリームが食べたいと言われていたので、作ってみたもので。気に入ってもらえてよかったです」

「氷雨さんが?」

「はい」


私の返事に美鶴さんは「残念ね」と頬に手を当てながら苦笑いした。


「氷雨さん、急遽幽世に出張が決まったみたいで、今お留守なのよね。すぐに帰ってくると思うけど、今夜はこっちへ戻らないっておっしゃってたわ」

「そうだったんですか」


それは確かに残念だ。せっかくリクエストをもらったので、食べてほしかったけれど。


それから私は、お昼のまかない弁当を持ってきてくれた美鶴さんとお昼休憩をはさんで、完成させたシュークリームを食べてもらった。少し甘さが控えめかしら?など、いろいろと感想をもらったのでメモを取っておく。


時景様にも試食してもらいたいと冷蔵庫に数個残していることを伝えると、美鶴さんが伝言を頼んでおいてくれることになり、私は自分用にとタッパーに入れたシュークリームを持ち帰ることとなったのだった。

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