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翌朝、目が覚めた私は居間にあるちゃぶ台の上を見て、朝から「ない!」と大きな声で叫ぶ羽目になった。
「うそでしょ?!昨日、置いておいた私の大福、なくなってる!」
そこに残っているのはラップと何も乗っていないお皿だけで、大福だけが丸々消えてしまっている。秘かに楽しみにしていたものがなくなっていて、がくりと朝から項垂れる私。
「……まさか、時景様が食べたんじゃ?」
旅先の旅館で、のほほんと私の部屋のお茶を飲んでいた彼のことだ。私が寝ている間に大福を食べたのでは?と予想する。持ってきてくれたのは時景様だけど。食べようと思っていたものがなくなっていることに、私は「くっ……!」と悔しさを噛みしめた。
それからその日は時景様に会うこともなく、製菓用の厨房にこもってお菓子作りに専念した。与えられた期間は2週間。まずは、それまでに夕食、お客様にお出しする料理に合うスイーツを考えなくてはいけないから急がなくては。
メニュー内容は氷雨さんから事前にもらっていた。タケノコやフキノトウ、ワラビなど春らしい食材が使われている。季節感の感じられるメニュー構成は、あやかし宿でもきちんと踏襲されているらしい。
もちろん、どれも試食させてもらって味の確認は済んでいる。素材の良さを引き出すシンプルな味つけながらも、繊細で見た目も美しい料理の数々には感嘆した。さすがお料理自慢の宿だけある。
「季節感を大事にした料理となれば、スイーツも当然だけど春を感じられるものにしたいわね」
春といえばイチゴや桜、抹茶を使ったスイーツが出回る時期。どんなスイーツがいいかな、と持参したスケッチブックにアイデアを思いつくままに書き連ねながら案を練っていく。
「そういえば、氷雨さんにシュークリーム作ってほしいって言われてたっけ」
私は冷蔵庫の中身を確認すると、次はシュークリーム作りに取り掛かることにした。中のクリームは甘さ控えめにして抹茶を加えたり、苺ジャムを混ぜてみたり、いろいろ試してみるのもいいかもしれない。
なんだか楽しくなってきた。
一人だけの静かな厨房内で、私はとっておきのシュークリームを作ろうと早速作業に取り掛かることにした。




