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「はぁ~……疲れたぁ……」


久々にがっつりと労働を終えた私は、早々に部屋に戻ってちゃぶ台の上にぐたりと顔を伏せた。あの後、美鶴さん指導のもと、仲居としてのマナー研修を受けたのだけれど、ニコニコとおっとりしたイメージの彼女から想像もつかないほど、スパルタな研修だった。


厨房にいることが多いとはいえ、私もこの旅館の一員。お辞儀の仕方から襖の開け方、言葉遣いと、いろいろなことを指導してもらったのだ。


「温泉旅館って、こんなに大変だったのね」


ちゃぶ台の上に頬をひっつけながら、一人そんなことを呟く。どんな仕事も大変であることは重々承知しているけれど、やっぱり新しい職場で働くときは体も緊張状態で、どっと疲れが増すようだった。それに──。


「……料理長も、いきなり来た人間の小娘が宿の料理の一品を作るとなると嫌な気するわよね」


厨房での一件を思い出し、今度はちゃぶ台に額を押し付ける。製菓学校で勉強したとはいえ、まだ技術的にも未熟な私がいち旅館の製菓づくりを任されるなんて。元々そこにいる人たちからすれば、いい気分がしないのは当然のことだろう。


けれど、だからと言ってここで投げ出すわけにはいかなかった。


私はダメな自分から変わりたいと思って、あのとき時景様の手を取った。今度こそ、変わりたい。だからこそ、これまで避けてきていたあやかしたちの輪の中へ入ることを選んだから。


「がんばるしかないわ……」


服も着替えて、お風呂に入らなくちゃいけないし。そういえばまだ晩ご飯も食べてない。あれこれ、やらなければと思いつつも、思った以上に体は疲れていたようで、私の意識は次第にぼんやりと薄れていく。


「早く出ていって……」


意識が途切れる前、弱弱しい小さな女の子の声が聞こえた気がした。けれど、それが誰の声なのか確認する前に、私の夢の中へと落ちていった。

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