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「氷雨さんは、何か食べてみたい洋菓子ってありますか」
これから、いろいろと試作をする上であやかしの好みというものも、しっかりと理解しておきたい。そう思って尋ねてみると、氷雨さんは「シュークリームが食べたいです!」と、ずいと前のめりに応えてくれた。
やっぱり、この人食に対しての興味がハンパない……。
「シュークリーム、ですか?」
「ええ!以前、現世のテレビ番組を視聴していたときに見たんですが、ふわっとした生地の中にカスタードクリームや、生クリームがたっぷり入っていて、とても美味しそうでした!」
「氷雨さんって市場調査のために、いろいろなお店を回っているんでしょう?シュークリーム、食べたことないんですか?」
「あいにく現世の宿やお店に人間に紛れて調査するようになったのは、つい最近のことなので、まだまだ未知のものが多いです。市場調査は主に俺が行っているので、ほかのあやかしたちもまだまだ勉強中という感じで」
なるほど。だから、時景様も「スコーン」や「パティシエ」のことを知らなかったのね。そういう意味では、まずはいろいろな洋菓子を作って食べてもらうところから始めてもらうのもいいかもしれない。
「そうね……。じゃあ、最初はシュークリームを作ってみようかな」
私の言葉に氷雨さんの瞳がキラキラと煌めいた、気がする。クールな見た目と、中身が一致しない人だなぁと改めて思う。
「今日は旅館の従業員としての作法を覚えてもらうためのマナー講習がありますが、ぜひ明日から取り掛かってもらえたら」
「わかりました」
こうして私は、まずはシュークリーム作りから始めることになったのだった。




