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「心意気は立派や。……けど、厨房で通用するんは『味』だけやからな」


ふんと鼻を鳴らした後、背を向けて現場に戻っていってしまった料理長に、胸の内がすっと冷えていき、私はギュッと両手を握りしめた。時景様や氷雨さん、美鶴さんは好意的に接してくれるから少し安心していたけれど、現実はそう簡単な話ではなかった。


最初から認められるとは思っていなかったものの、あからさまな拒絶にやっぱり心のダメージはある。過去の出来事を思い出し、自然と体が固まってしまうのを感じた。


「あかね殿、大丈夫ですか」


そんな私の顔を覗き込み、心配そうに見つめる氷雨さん。


「頑固親父みたいな人で怖そうに見えますけど、ああ見えて面倒見のいい人なので。その……しばらくは、あんな感じかもしれませんが」


苦笑しながらそう言った氷雨さんに、「大丈夫です」と返す。怖いし、不安しかない。だけど最初からこうなることはある程度、予想していた。


過去の私から変わるために、これもきっと乗り越えなくちゃいけない壁だ。


「料理長に認めてもらえるように頑張ります」


私の言葉に、氷雨さんは目を見開いて驚いた後、ふと頬を緩めて笑いかけてくれた。


「いい心がけですね」

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