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「誇張表現はやめなさい」
そう続けて笑う時景様に、氷雨様はしれっとした様子で「美鶴殿があまりにも前のめりだったので、つい」と真顔で返していた。わ、分かりにくい冗談……!
美鶴さんにつられて、私も氷雨様を壁際に追いやる時景様を私も思い浮かべちゃったじゃない。けれど、当の本人は信じていないようで。
「私、お二人がそういう関係だってこと他言しませんので、どうぞご安心くださいませ」
だなんて言って、にこにこ……いや、にやにやと笑いながら時景様と氷雨様を見つめていた。私の中で、先ほどまでの美鶴さんの大和撫子のイメージが少しずつ崩れつつあるような気がした。
「それはそうと、離れの案内は済みましたか」
時景様の問いかけに、「いいえ」と返した氷雨様は、「ちょうど設備の確認が終わったところで、これからですよ」と言いながら、私に向き直った。
「今日からこちらが、あかね殿の寝泊まりする部屋になります。人間が使うものと同じ仕様になっているので、使い方に不便は感じないと思いますが。……長く誰も使っていなかったので、最初は掃除をしてから使うのがよいかと」
「分かりました」
確かにところどころ埃が溜まっているようだけれど、これだけ立派な部屋を与えられるだけで十分だ。こういう、おばあちゃんちみたいな古民家に一度住んでみたいと思っていたから、なんだかワクワクする。
「あと、厨房については後日改めてご案内しますね。料理と、菓子を作る厨房は一応分けているのですが、料理長は製菓用の厨房をほとんど使っていなくて。あちらはまだ人間仕様の設備が整っていませんので」




