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「はぁ、はぁ……階段きつかったぁ……」


桜が咲き、ぽかぽかと心地のよい春の訪れを感じる4月のある日、私、藤宮(ふじみや)あかねは、兵庫県神戸市の有馬温泉街にある湯泉(とうせん)神社へとやってきていた。


「160段とか……っ、余裕と思ってたけど……っ、かなりしんどいわね……っ」


膝に手をついて息も絶え絶えに1人呟く。ポニーテールにした長い髪がさらりと肩を滑り、体を起こして一呼吸。黒のリュックにスニーカーと、身軽な格好で来たものの最近運動不足の私には、160段の階段は思った以上にハードだった。


神戸は海の街、港町のイメージが強いけれど、「山側」と呼ばれる六甲山を超えた北のエリアには、田園風景が広がる緑豊かな場所がある。そして、この神戸には「有馬温泉」という国内有数の温泉地もあるのだ。


有馬温泉といえば日本三古泉に数えられる名湯で、かの有名な豊臣秀吉がこよなく愛した温泉としても知られている。そのほかにも、小野小町や足利義満、千利休に石田三成、歌川国貞、伊能忠敬……とまあ、歴史の教科書に登場する名だたる有名人も訪れた温泉地である。


そして、この湯泉神社は有馬の地の氏神であり、守り神。有馬を最初に発見したといわれている大己貴命(おおなむちのみこと)少彦名命(すくなひこなのみこと)と、熊野久須美命(くまのくすみのみこと)の3柱の神様が祀られている。


御朱印集めが趣味の私は、そんな湯泉神社の御朱印をゲットすべく160段の階段を上ってきたというわけだった。


「わあ、桜が綺麗~……」


階段を上った先は大きな広場のようになっていて、その奥には本殿が見える。ちょうど桜の開花時期で、境内には淡くピンクに色づいた桜の花が時折風に揺れ、ひらひらと舞っている。


かわいらしい桜の花にふと頬を緩ませた私は、まずはまっすぐに本殿へと向かい、賽銭箱の前に立った。


二礼二拍手一礼。手を合わせて感謝の気持ちを伝えた後、本殿の妻飾りを見ると、そこには3羽のカラスが彫られているのを発見。


傷ついた3羽のカラスが水浴びしていたところ、数日で傷が治ったのを大己貴命(おおなむちのみこと)少彦名命(すくなひこなのみこと)が見たことがきっかけで、有馬温泉は発見されたといわれている。なので、有馬温泉街には3羽のカラスにちなんだものがあったりするそうで、市の観光サイトにもこの珍しい妻飾りのことが紹介されていた。


スマホで写真撮影も済ませ、さて次は御朱印をもらいに授与所に行くか……と思ったのだけれど、そこで私の体がぴたりと止まる。


なぜなら桜の木の下に設置されたベンチに、先ほどまではいなかった男の姿を見つけたから。


白の着物に水色の羽織、肩よりもやや長い金色の髪。かなり目立つ格好をしているから、私が来る前からいたのならきっと気づくはずだけど……。と考えたところで、嫌な予感が頭をよぎる。


まさか、ね。


そう思って男の側を通り過ぎようとしたとき、《《人ならざる者》》特有の気配を感じた私の胸が、音を立てどくんと鳴った。

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