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苦い思い出が頭をよぎる。あの頃のことを思い出すと、私は今でも胸が苦しくなってしまう。
「そうよ!私はパティシエになりたくて修行してたけど、憧れだった店をたった半年で辞めた落ちこぼれよ!」
胸がギュッと苦しくなって、手のひらを強く握りしめる。過去の傷を抉るような彼の言葉に、嫌な記憶が呼び起こされた。
かつて私は、パティシエになるという夢を叶えるべく、毎日必死に勉強していたことがある。製菓学校を卒業してからは、有名パティスリーに見習いとして入社することになり、期待を胸に社会人生活をスタートさせた。
けれど、実際に仕事が始まると早朝から夜遅くまで休みなく働く日々。それも修行のためと思えば耐えなければと思い、先輩の背中を追いかけた。
『いつまで作業に手間取ってるんだ、早くしろ!』
『どんくさい奴だな、邪魔だ、どけ!』
そんな高圧的な先輩たちの言葉や振る舞いに、私の心は次第に病んでいき、あっけなくポキンと折れてしまった。ここで辞めるなんて根性なしだ。言われたこともできないなんて、私はダメな人間だ。
そう思って耐えていたけれど、出勤しようと思うと体が拒否するように動けなくなってしまい、ドクターストップがかかったことを機に辞表を出すこととなった。それから別のパティスリーで働こうと思ったものの、厨房に誰かと一緒にいると、先輩たちに怒られたことを思い出してしまい、長く続けることができなかったのだ。
「……どこに行ってもやっていけなかった。そんな私が、パティシエなんてできるわけないじゃない」
そう言って俯く私の前に、時景様が近寄ってきた。
「……できるか、できないかは、やってみないと分からないでしょう?」
静かな声が響く。ゆっくりと顔を上げると、時景様は優しげな目をして私のことを見つめていた。
「一度や二度駄目だったからといって、自分には才能がないなんて思わなくていいじゃないですか。三度目、四度目の挑戦で、できることだってあります。諦めたくない夢があるのなら、叶えられるまで続けてみればいいじゃないですか」
風に揺られ、さらさらと靡く時景様の金色の髪。朝日に照らされたその髪は、きらきらと輝いてとても綺麗だった。
「……あかねが作ったすいーつ、私は好きですよ」
そう言われ、どくんと胸が鳴る。




