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「なぜです?!」
ものすごい勢いで詰め寄ってくる男に、「逆に聞くけど、どうしてすんなりOKもらえると思ったのよ」と、私は呆れた表情を向けた。
「そりゃあやかしたちの姿が見えるとはいえ、人間の私があやかし旅館で働くなんて、普通に考えておかしいじゃない」
ため息をつきながらそう返せば、「おい、そこの女!」と急にシュタッと上から何かが降ってきた。見ると、そこには黒髪に、きりっとした顔立ちの男の姿。背には黒い羽をまとっているのを見るに、この男も彼のお仲間のあやかしだろうか。
「お前、時景様に向かってなんて失礼なことを!」
「弥生、よしなさい」
間に入った時景様とやらの言葉に、「ですが……っ!」と言葉を詰まらせる天狗男。
「顔良し、性格よしと非の打ちどころのない、完璧な御仁である時景様からの申し出を無下にするとは、一体どういうつもりだ、女……っ?!」
拳を握りながら鬼気迫る勢いで熱弁する男に、若干引き気味の私。時景様よりも背が高くて、忠誠心が厚いのか、なんだか大型犬みたいな雰囲気を感じる。忠犬ハチ公的な。あやかしって、みんなこんな感じなのかしら……と、私が呆れていると、時景様が「弥生」と呼ばれた男の前にずいと立つ。




