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花火が出た

作者: 白波空

 花火が宙で破裂する音がした。縁側から見える景色は、黒一色とは程遠いらしい。らしいというのは、実際に見たことがないのである。私は目が見えない。

 けど今日は大きな祭りだから、外は多分明るいのだろう。縁側からでも分かるほど、騒がしい。

 突然、蚊取り線香の匂いがした。

 縁側の古い床板の上を、すり足が通った。それで父だと分かった。その音がすり足にしては少々大いので、何やら急いでいるらしいということは分かった。けれども私の後ろを、見向きをするような動作の合間も置かずに、やがてそのすり足は遠ざかっていったので、どこか寂しいようにも感じられた。

「お父さん、何があったの?」

 ややあって、それでも気がかりだった私は、父のすり足の消えた方へと、いくらばかりか声を張り上げて訊いた。けれども返事などは返って来ず、代わりに花火の破裂音、そして熱風と蚊取り線香の香ばしい匂いだけが、私の周りに広がっていた。

 その様は私の脳裏に、まるで目で見ているかのような大きな、大きな、虚空に咲く花火を見せた。

 そのせいだろうか、肌はジリっと熱く感じ、身体の外側からの熱風が、身体の芯まで焦がすかのように思われた。けれどそれもやはり、脳裏に咲いたあの花火にように、次第に薄れ、その後にはすっかりと冷たくなった夜風が私の頬を撫でたのでした。

「花火が出た!」

 誰かがそう大声で叫んだ声が、この縁側まで聞こえてきました。でもおかしいのです。花火は上がるものではないのでしょうか。

 やがて私はふと、一つの結論に辿り着きました。

「娘が!」

 それと同時に、最後の最後で、私は、その叫び声を耳にしたので、安らかな気持ちになることができました。

「花火が出たぞ!」

 そういえば。

 最近耳にしたのですが、ここ最近のところ、花火という、放火魔が夜になると家々に火をつけて回るそうなのです。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 途中、情景描写に心惹かれました。 そして最後の一行での展開がとても面白かったです。
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