第9話 これは映画ですか? いいえ、バイオハザードです!
「最近デカいネズミ、よく見るよね」
今日は美咲と映画を見に行くということで、彼女の家で待ち合わせして最寄りの駅まで歩いていった。
「この間のキノコが原因でしょ?」
「えっ!?」
「でも、ニュースで翌日には回収されていたはずだけど……」
「なんかかじられた跡があったって言ってたよ」
僕もニュースを見ていたがチラッと言っただけらしく、完全に初耳だった。とはいえ、もしかじられていたとしたら、ネズミが大量発生する可能性も十分考えられる。
なにしろ、キノッピーのいた世界ではハツジョウタケが原因で動物に乗っ取られた街があるということだった。
「ま、まあ、何とかなるでしょ」
「そうね。S級異能力者もいるしね」
大した異能力を持たない第七の生徒と違って、S級と言われる第一の生徒は威力だけでなく範囲や使い勝手などを含めて、総合的に優秀な異能力が揃っている。
特に最大で半径10㎞以内を凍土に変える氷室玲華や、同じく半径10㎞以内の生物から生命力を奪う影山哲郎などがいれば、普通の動物など何匹いても問題ないだろう。
「そう言えば、キノコ魔法って、どのくらいの範囲まで広げられるんだろう……」
「それはお前の魔力次第だ。今だと半径1㎞がせいぜいという所だな」
「しょぼいね、キノコ魔法」
「お前が原因だ、お前が。強くなれば半径10万㎞でも問題無いわ!」
思ったより範囲が狭かったので、率直な感想を言ったらキノッピーがブチ切れてしまった。そして言うだけ言ってキノッピーは消えてしまった。そのためだけに出てくるなんて、キノコ魔法に対する愛が強すぎる……。
「ま、まあ、とりあえず映画を見に行くんだっけ?」
「そうよ、『アルジャーノン』っていう映画よ」
「どんな映画?」
「ネズミによって支配された世界を描いたSF映画よ。胸糞な終わり方らしくてネットでの評価はいまいちね」
「……なんでよりによって、そんな映画を? こっちの名探偵コリン~無限の迷宮~の方が良くない?」
「いやいや、高校生にもなってアニメ映画なんて……。いや、葵ちゃんがいるからワンチャンあるかも?」
「どういう意味だよ……」
「年の離れた従妹を映画に連れてきたお姉さん的な?」
「い、いや。やっぱり『アルジャーノン』でいいよ。いや、そっちの方がいい!」
流石に高校生が小学生として映画館に入るのはどうかと思った僕は、美咲の希望に従って『アルジャーノン』を見ることにした。しかし、意外なところに罠が潜んでいた。
「大人2枚ください」
「えっ? この映画はお嬢ちゃんにはちょっと刺激が強すぎると思うわよ。あっちの映画にしたら? ねえ、お姉ちゃんもそう思うでしょ?」
「そうですよね。ほら、葵ちゃん。まだ、この映画は早すぎるみたいよ」
「ちょっと、僕は高校生ですから!」
チケットを売るお姉さんにまで子供扱いされてしまったので、高校生だと主張するも全く信じて貰えていないようだった。
「いやいや、どう見ても小学生じゃないの。もしかして大人になりたい年頃ってヤツ?」
「いやいや、本当に高校生ですから。これ学生証です」
しかし、学生証を見たお姉さんは怪訝な顔をしただけだった。
「いや、これお嬢ちゃんじゃないよね? お兄さんの学生証を勝手に持ち出したらダメじゃないの。メッですよぉ」
「まあまあ、実は……。この子、こういう映画が好きなんですよね」
「そうなんですね。まあ、映画に年齢制限はないので本人が問題なければ……。では、大人1枚、子供1枚ですね。2700円になります」
僕は子供扱いされたことに不満はあったが、これ以上は言い張っても無駄だと思い、仕方なく子供チケットを受け取る。トラブルはあったものの、何とか映画を見るところまで漕ぎつけた僕だったが、映画の内容は酷いものであった。
デデン、デデン、デデン、デン、デン、デン、デデデデ……とどこかで聞いたことあるようなBGMと共にネズミが恐怖に怯えた人々を襲うだけの映画で、襲われた人々はほとんど生きたまま食べられるような感じだったが、女性の中にはネズミと人間のハーフのような生き物を孕ませられ、出産する場面が描かれていた。そして生まれたネズミ人間はやがて人間に代わって街を支配し、人間はエサか子供を産むための道具のような扱いを受けるような状況になっていく。最終的には洋画にありがちな核兵器で一網打尽という展開となり。最後は、廃墟となった街の中からネズミが顔を出したところで終わるというものだった。
「ちょっと……。この映画酷すぎじゃない? というか、やたらと生々しいんだけど」
「まあまあ、所詮はフィクションだから」
僕たちは映画を見終わって、レストランで食事をしながら映画の感想に花を咲かせていた。その時、僕たちのスマホが緊急時の通知音を流し始めた。異能学園の生徒は第七であっても非常事態が発生した際に通知が来るようになっている。今、鳴り響いている通知音は、まさに非常事態を通知するためのものであった。
「ええと、何々……多摩川沿いでネズミの大軍に人々が襲われてるって……。マジか」
「まるで映画みたいね」
焦る僕とは対照的に美咲は危機感を感じていないようだった。
「いや、これ僕たちの家の近くじゃない。ヤバいよ」
「大丈夫よ。上位ランクの異能者にも通知はいっているはずだし、私たちが動かなくても解決するわ」
「そうは言っても……」
「私たちが下手に動いても、返り討ちにあって二次災害になるだけよ。私たちにできることは、ここで大人しく解決するのを待つだけよ」
「そうは言っても……。もういい、僕だけでも行くから!」
精神的に追い詰められた僕は独りでも家族を助けるために現地に向かうことにした。それを見た美咲は、大きくため息をついて肩をすくめる。
「やれやれ、やっぱり葵は葵だね。わかったわ。私も葵が無茶をしないようについていくから。現地では私の指示に従いなさい。いいわね」
「わかったよ、美咲……お姉ちゃん」
彼女に睨まれて、思わず最後に『お姉ちゃん』を付け加える。
「それじゃあ、さっさと行って解決しましょうか」
「うん!」
僕たちは店を出るとスマホを使って緊急用移動車両を呼び出した。幸いにも現場からさほど離れていなかったため、10分ほどで現場外周へと到着する。外周では、第四から第六までの生徒がネズミが広がらないように必死で抑えていた。
僕たちは彼らの包囲網をくぐりぬけると現場の中へと入っていく。現場の中は地獄のような有様だった。身動きできない状態にされてネズミたちに群がられて齧られている男や、ボロボロの服でネズミたちに身体を押さえられて凌辱されている女性などがいた。
「ダメよ。私たちの目的は家族の安全。彼らは可哀そうだけど、下手に手を出すと私たちがここにいるのがバレるわ」
「わ、わかったよ……」
人々の助けを求める声が響く通りの裏をネズミたちに見つからないように、隠れながら進んでいく。
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