第7話 これは異能者ですか? いいえ、変態野郎です!
「ちっ、大人しく俺たちに犯されりゃいいんだよッ!」
臨戦態勢となった僕に黒崎が罵声を放った――その瞬間、僕は右へと飛び退く。
「ちっ、避けやがったか……」
「黒崎さんの『手』を避けた!?」
そう、目には見えないが何かが迫ってくる気配を感じた僕は、その感覚を信じて回避したのだが……どうやら正解だったようだ。彼らは、それを『手』と呼んでいるらしい。
「ちょこまかと鬱陶しい奴め。だが、無駄な足掻きだ」
彼の方から迫ってくる『手』を、感覚を頼りに回避する。しかし、攻撃に転じようにも、彼の周囲に多数の気配を感じていて、迂闊に手を出すことができなかった。おそらく、これまでは女性をそれで押さえ込んで好き勝手に凌辱をしてきたのだろう。
「変態野郎どもめ……」
僕は悪態を吐いた。魔法で対応したいところだったが、ひっきりなしに攻撃が来ていて、なかなか隙を突くことができないでいた。このままだとジリ貧になると焦る僕と同様に、なかなか捕らえられない黒崎も次第に焦りの表情が浮かんできた。
「くそっ、いい加減あきらめて大人しくしやがれ!」
「何を言っているのやら。そんなしょぼい攻撃で僕に触れられると思っているのかい?」
このままだと一方的に不利な展開になりそうだと判断した僕は、彼を煽っていくことにした。
「ふざけんな」
「おっと、もっと頑張らないと捕まえられないよ?」
「くそっ、お前たちも手伝え! 何ボケっとしてんだよ!」
「「あっ、はい。すんません!」」
僕を捕まえるために、とうとう黒崎は取り巻きに僕を捕まえるように指示する。しかし、それは彼にとっては悪手だった。僕は回避しながら取り巻きを挟むような位置取りをしていく。
「くそっ、お前ら。ちゃんと動け、邪魔すんじゃねえよ!」
「「す、すみません……」」
「雑魚を増やしたところで無駄だよ、無駄」
「き、貴様ァァァ!」
予想通り、取り巻きによって『手』の動きが制限された黒崎は、さらに苛立ち、取り巻きたちに罵声を浴びせ始める。そのタイミングで僕がさらに煽りを入れると、完全にブチ切れてしまった。
「く、黒崎さん。落ち着いて――ぐあっ」
「ま、まてっ――あべっ」
これまで自分の身を守るようにしていた『手』までも僕に向かわせた。それだけでなく、僕との間に挟まった取り巻きたちを巻き添えにして、僕に『手』を振るい始める。
「そろそろかな」
僕は迫りくる『手』を大きく回避すると、彼の背後に回り込んで宿星剣を振るった。その剣撃により何人かを行動不能にしたが、僕の方も『手』に捕まってしまった。
「ふへへ、やっと捕まえたぜ」
「お前たちも動けないじゃないか。無駄だよ」
「ふん、俺の『手』は沢山ある。お前をいたぶって抵抗できなくしてしまえば、俺たちの勝ちだ!」
「そんな時間を与えるつもりは――ないっ! 胞子領域!」
僕の呪文によって周囲に大量のキノコが展開される。
「何だこれは……!?」
「僕のキノコだよ。お前たちはキノコによって蹂躙されるのさ。毒茸胞子!」
一帯に生えているキノコの色が毒々しいものに変わり、一斉に紫色の胞子をばらまき始めた。
「ぐあっ、なんだこれは? ぐふッ」
「あががが」
「げほっげほっ」
胞子に覆われた黒崎たちは咳き込み、胸を押さえて、目や口から血を流し始めた。
「こ、これが貴様の異能力……。バカな、第七の分際で……」
「あははは。そっちこそ、第五程度でイキっちゃって、バカみたい」
「第七のクソが偉そうに言うんじゃねえ!」
黒崎が叫ぶが、既に毒がだいぶ回っているようで、彼の『手』も既に出すことができなくなっているようだ。先ほどまで偉そうにしていたのに、這いつくばってもがき苦しむ彼らに、僕は黒い愉悦を感じていた。
「ふふふ、いいこと教えてあげるよ。『目くそ鼻くそを笑う』ってね。僕たちは最底辺って言われるクソかもしれないけど、お前たちも大して変わらない。単なるクソでしかないんだよ。よかったね。少しだけお利口さんになったね。ふふふ」
「くそぉぉぉぉ、ごばぁ」
黒崎はぶち切れながら大量に血を吐き出した。どうやら、そろそろ命の火も燃え尽きるようだ。黒崎は、僕のことを憎らしいとばかりに睨みつけていたが、動けない人間が睨んだところで大して怖くもない。
「そろそろ、お終いにしようか。安心していいよ。お前たちの身体は頭のてっぺんから足の先まで有効活用してあげるからね。吸命胞子!」
今度はキノコから紅い胞子がばらまかれ、彼らの身体を覆う。その胞子は彼らの身体を養分にして、ピンク色のキノコを生やしていく。
「ああああ、や、やめ――」
「そんな、助け――」
「うわああ――」
三者三様の断末魔の声を上げながら、彼らはキノコの山になっていった。
「ハツジョウタケかぁ。こいつららしい結果だな……」
そのキノコはハツジョウタケと言って、食べた生き物を発情させる効果がある。人に使った場合は強力な媚薬のような効果になるのだが、それよりヤバいのは野生生物が食べてしまった場合である。
「このキノコのお陰で、キノッピーの世界で生態系が壊れたところもあるみたいだけど……。まあ、ここなら大丈夫かな?」
僕は変身を解くと、店の中から店員さんが様子をうかがっているのが見えた。幸いにも少し路地裏に入った店だったこともあり、彼女以外に見ていた人はいなかったようだ。僕は不思議そうな顔をしながら店員さんに声を掛ける。
「あれぇぇ? さっきの怖い人たち、どこいっちゃったのかなぁ? ねぇ、お姉さん。何か知ってる?」
「え、えええ? あ、いや、私もちょっと目を離しちゃってて……」
「あ、そうなんだ。あの人たち、どうなったか見てなかったってことでいい? ホントに?」
念押しして聞いてみると、店員さんは顔を真っ青にして大きく何度も頷いた。
「そう、ありがとう。じゃあ、見てなかった、ってことでお願いね。嘘だったら、どうなるか……わかるよね? それじゃあ、ご飯美味しかったよ!」
そう言って、店員さんに手を振ってから、美咲を連れて店を後にした。
後日、都内某所で大量の未知のキノコが生えているのが発見されたらしい。ところどころかじられた跡があったものの、キノコは全て都内の研究所に送られたそうだ。
「ねぇ、あのキノコって……。葵のヤツだよね?」
「まあいいじゃない。僕たちは第七だし、誰も気付かないって」
僕たちは、デ――ショッピングの締めとしてやってきた喫茶店で雑談に花を咲かせたのだった。
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