第5話 僕は人間ですか? いいえ、魔族です!
昨夜はお楽しみでしたね……?
「ああああ、やってしまった……」
昨日、全然寝付けなかったとはいえ、女の子の身体を楽しんでしまった罪悪感に打ちひしがれていた。健全な男子高校生なら似たようなことを毎日やっていても当然(インターネットで調べた)なのだが、今の僕の身体は男子高校生ではないこともあり、無垢な少女を汚しているように感じられて罪悪感が半端なかった。僕が頭を抱えて悩んでいると、スマートフォンにメッセージが届いた。
「美咲からかぁ。なになに……『昨夜はお楽しみでしたね!』……余計なお世話だっ!」
昨晩と同様にスマートフォンをベッドに叩きつける。興奮して荒くなった息を整えると学校に行くための準備をする。予想通り、今日から休校となり、少し早くて長い夏休みとなるのだが、諸々の話をするために全校集会を行うとのことであった。家を出て電車に乗って学園の最寄り駅へと向かう。今日は全校集会だけということで、少し遅めの時間だったため、電車も比較的空いていたので楽に通学できた。
「おはよう。美咲」
「……『美咲お姉ちゃん』でしょ。それに『おはようございましゅ』でしょ」
「おはよう。美咲お姉ちゃん」
「……まあいいわ。おはよう、葵ちゃん」
駅前でいつものように待ち合わせしていた美咲と挨拶すると、不意に僕の頭を撫でてきた。
「ちょっと、何するんだよ!」
「可愛かったからね。仕方ないよね。それに、そこは『お姉ちゃん、恥ずかしいよぉ』でしょ」
「仕方なくない。それに意味が変わってるし……」
「まあまあ、細かいことは気にしないの。ほら、さっさと行くわよ」
そう言って、美咲は学園に向かって走り出した。その彼女を必死で追いかける。
「ちょっと、早いって……。この身体になったから走るのがきついんだって」
「何をやっておる」
「ちょ、キノッピー? 暇なの?」
「暇ではないぞ。だが、何で本気を出さないのだ?」
「いやいや、この身体じゃ無理だって。まさか変身するって言わないよね?」
「当たり前だ。自分の身体の中に秘められた力を解放するだけだぞ」
僕はキノッピーの言葉に従って身体の内側を観察する。すると、お腹のあたりに金色の力の塊があるのを見つけた。それを意識で自分の全身に行き渡らせる。すると、凄まじい力が身体に漲ってきた。
「こ、これは凄い……」
「そうだろう? その力のまま学園まで走るがよい」
「うん、わかった。ありがとう、キノッピー」
僕は力がもたらす衝動に突き動かされるように走り出した。そのスピードは凄まじく、あっという間に美咲を追い越した。そして、いつもなら5分以上かかる学園への道を1分とかからず走り切ってしまった。
「はあはあ、これは、すごい……」
猛スピードで走り切ったせいだろう。僕の方をチラチラと見てくる生徒が多かった。しばらく遅れて、美咲が追い付いてくると目を丸くして驚いていた。
「ふふん、凄いでしょ。僕だって本気出したら、このくらいは……」
「葵、それ……何?」
僕がドヤァしてたら、葵が僕の頭を指差して訊いてきた。何か付いているのかなと思って、手を当てるとふにゃっとした柔らかいものが手に当たった。
「ふぁっ。なにこれぇ」
しかし、手に当たっただけではなかった。それに触れた瞬間、僕は頭を好きな人に撫で続けられるような感覚に襲われ、思わず声が漏れてしまった。
「耳?」
「耳?」
美咲が疑問形で言ってきたが、何のことか分からず僕も疑問形になる。そして、彼女は指を僕の股間のあたりに持ってきた。
「ちょっと、何を見てるのさ……」
「いや、尻尾?」
「尻尾!?」
その行為を非難する僕をよそに、彼女は不穏な単語を出した。そのことに心当たりのあった僕は、慌ててお尻の方を見る。すると、そこには金色の毛のふさふさした狐の尻尾があった。それは僕の下着の上の辺りから生えていて、スカートを押し上げて生えていた。
「んんんんっ!」
僕は意図せずパンチラどころかパンモロしていたことに驚いて、慌ててスカートを押さえるが、まっすぐ生えている尻尾の力の前には無意味だった。僕の方をさっきからチラチラ見る人が多いのは、この耳と尻尾、そして丸見えになった下着とお尻が原因なのだと、今になって理解した。
「ちょっと、キノッピー。どういうことよ!」
「お前の秘められた妖狐の力を解放しただけだが?」
「意味がわからないんですけどぉぉぉ!」
「まず、お前はワシと契約したことで雌の妖狐になったのだ」
「雌いうな!」
「そして、呪文を唱えることで魔法少女に変身する力を手に入れたのだ」
「ってことは、僕は人間じゃなくなったってこと?」
「何を言っているのだ、お前は。魔王の眷属が人間のはずがなかろうが」
何もかも初耳だった。変身した時に耳と尻尾が生えるだけの話だと思っていたら、人間自体を辞めてたようだ。とりあえず、今のままだとまずいので、キノッピーに聞いて耳と尻尾をしまう。
「何を気にする必要があるのだ? 別に普段は人間と変わらない姿じゃないか。それに魔族になったから寿命も数千年になっておるぞ」
「えっ、それって成長するのに何年もかかるってこと?」
「身体的なことであれば基本的には成長しないぞ。ずっと見た目は変わらないのだ。いいだろう?」
今の僕の姿は小学生くらいの女の子である。胸がほとんど膨らんでいないため、外見的には背が低くなってアレが無くなっただけという感じである。一方でアレが無くなったせいだろうか、他の人の胸の大きさと自分の胸の大きさを無意識に見比べてしまうようになっていた。そのあたりは男だった時にアレの大きさを見比べてしまうのと同じようなものだろう。
身近に美咲という、精神的には同い年の比較対象がいるのも原因だろうと思う。ちなみに、彼女はEカップであるという余計な情報まで、昨日お風呂に一緒に入った時に聞かされたことも大きかった。
ちなみに、現在の僕はAAカップという比較するとアリと巨象ほどの違いだそうだ。ホントに余計な情報だよ。
「成長しないって……。僕はずっとアリのままなのかよぉ」
「言っている意味はよく分からんが……。魔力を上げていけば見た目は成長するぞ。もちろん、何もしなければ何年たっても同じ見た目だぞ」
なるほど、頑張ってレベルを上げるみたいなことをすれば、きれいなお姉さんになるってことらしい。
「成長しても期待通りの見た目になるかは現実と一緒だがな。妖狐族は成長するとロリ系かセクシー系になることが多いな。どっちになるかは分からんが……」
「マジでいらん情報だわ、それ……」
「あ、でも全く変わらないわけじゃないぞ。成長すると妖狐族は尻尾の数が増えるぞ」
「結局どうでもいい情報だった……」
見た目が変わらないかもしれないという衝撃的なことを聞いて落ち込んでいた僕を慰めようとしたのだろう。だが、聞いたところで慰めには全くなっていなかった。
「なに一人芝居しているのよ。そんなことよりサッサと行かないと遅れるわよ」
キノッピーのせいで危うく遅刻するところだったが、美咲がツッコミを入れてくれたおかげで、僕は気を取り直してホールへと向かった。
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