第4話 これはエッチですか? いいえ、社会勉強です!
前作で細かく書いていた部分になりますが、今作では戦闘イベントを入れるためにだいぶ端折っております。
「た、ただいまぁ……」
僕はとてつもない疲労感を伴って家に帰りついた。あの後、彼女の家で色々あったせいだ。最初の予定では急場しのぎの着替えを借りていくつもりだった。しかし、彼女の家に着いた僕は、彼女と彼女の母親の手によって2時間近く着せ替え人形と化していた。
その間にトイレに行こうとして失敗はするし、身体が汚れたので風呂を貸してもらったのは良いけど、美咲と一緒に入ることになった上に女同士だからと洗いっこまでさせられる始末だった。今でも風呂場の鏡に映った自分のあられもない姿を思い出しては恥ずかしさに顔が赤くなる有様である。
「おかえりなさい。あら、葵ちゃん。女の子になっちゃったの?」
よくあることのように母親が訊いてきているが、普通ならもっと驚くものじゃないの?
そんなことを考えていたら、表情に出ていたのか少し慌てたようなそぶりを見せる。
「あ、別に驚いていないわけじゃないのよ。いつかは……とは思っていたけど、帰ってきたと思ったら、女の子になってるなんて思ってなかったから……」
いつかはって何?! 確かに、前々から美咲と出かける時には女装させられていたけど、それとは話が違うよね? などとツッコミたいところは沢山あったが、何とか飲み込んで話をする。
「でも、普通は男の子が女の子にならないよね?」
「まあ、そうだけど。でも葵ちゃんだから。ね。それに、美咲ちゃんにも、葵ちゃんはいつか女の子として生きていくことになるだろうって言われていたから。それは覚悟してたのよ」
「どういうこと?!」
確かに僕が女の子になったのは不慮の事故ではあるのだが、美咲の行動が先取りしすぎで怖かった。彼女の家に行った時も、全ての事態に対して適切に準備がされていたのである。
「そう言えば、美咲の異能力はどんな姿になっても僕のことがわかるって言っていたけど、もしかしたら……それだけじゃないのかも」
あの時の彼女の様子は、全ての真実を語っていないような感じだった。僕がどんな姿になっても分かったのは異能力によるものだろうけど、それ以外にも何か秘密があるのかもしれない。
ピロピロピロ~♪
そんなことを考えていると、突然スマートフォンから着信音が鳴った。こんな時間に誰から、と画面を見ると美咲からだった。まさか、さっき考えていたことがバレたんじゃないかと思ってドキドキしながら通話ボタンを押した。
「もしもし……」
「もしもし、葵。寝てた?」
「いや、起きてはいたけど……」
「ならよかった。明日の放課後デートしよっ!」
「なに突然に……」
「いやいや、今日、色々服をあげたでしょ。でもあれって私のお古じゃない。ちゃんとした服を買っておいた方が良いかなと思ってね」
「いや、別に明日でなくてもいいんじゃないかな?」
「善は急げって言うじゃない。どうせ明日は早く終わると思うしね」
「えっ?」
「だって、あれだけ派手に襲撃があったじゃない。校舎が燃えたし、死亡者も出てるから、しばらくは休校になると思うわよ。まあ、第七は重要視されていないから、早めの長い夏休みって感じになるんじゃないかな?」
確かに、基本的に抗争を禁じられていない異能学園とはいえ、校舎全焼の上に生徒が何人か亡くなっていることを考えると休校になる可能性が極めて高い。ただでさえ、第七は教師陣のやる気も低く、何かあれば休校になるので、今回の事件によって、ほぼ確実に休校になるだろう。
「うーん、わかったよ。デートじゃないけど、服を買いに行こうか」
「むう、頑なだなぁ。でも、明日からは私のことは『美咲お姉ちゃん』って呼ぶこと。いいわね」
「えっ? なんでだよ!」
「葵……。自分の姿、鏡で見たでしょ。どこをどう見ても小学生じゃないの。そんな女の子が高校生を呼び捨てにしてたら違和感があるじゃないの」
彼女の言葉自体には説得力があるが、一方で割り切れない感情もあった。
「それと、男言葉を控えるようにね。変な注目を浴びたいならいいけど」
「それはっ……」
身体こそ女性になったとはいえ、心はいまだに男性のままであるため、抵抗感はかなりある。しかし周囲の人間にとっては、僕が元男性であることは知らないわけで、言葉遣いが乱暴だと変な目で見られるのは間違いないだろう。
「わ、わかったよ。なるべく気を付けるようにする。それでいい?」
「いいわ。ホントに気を付けてね。あんまり目立つと、変な人に攫われてエッチな悪戯されちゃうかもしれないから」
「言葉遣いだけで大げさな……」
「そんなことは無いわよ。葵はただでさえ可愛い女の子なんだから、目立ったら狙われる可能性も高くなるのよ。まあ、エッチな悪戯に興味があるなら止めないけどね」
「か、可愛い……」
美咲にそんなことを言われて、思わず僕がエッチな悪戯をされてしまう場面を想像してしまった。男だった時には、どこか他人事なので興奮したのかもしれないけど、女になった今となっては気持ち悪いという感情しか起こらなかった。
「もぅ、そんなこと言わないでよ。想像しちゃったじゃないか!」
「あらあら、葵ちゃんは随分とおマセさんじゃないの」
「そんなんじゃないからねっ! もう用は済んだ? それじゃあ切るから。じゃあね!」
これ以上は何を言っても良いように取られると思ったので、強引に通話を切った。その直後、彼女からメッセージが送られてきた。正直言って見たくはなかったけど意を決してメッセージを開いた。
「なになに……。『自分で慰めたくなっちゃった? そういう時はお風呂でやったみたいに優しくしないとダメよ。葵の好きなエッチな動画とは違うんだから』って、大きなお世話だよっ!」
僕は思わずスマートフォンをベッドの上に叩きつけると、その重さでマットレスに沈んだ。気分的には床に叩きつけたいが、自分にダメージが返ってくるだけである。
「あーもー、いいや。今日はもう寝よう。疲れたし……」
僕は早々に寝間着に着替える。これも美咲に貰ったものだが、なぜかスケスケのネグリジェであった。仕方なくそれを着た僕は、思わず姿見を覗いてしまった。
「あっ、えっ?」
ヒラヒラの布から透けて見える下着と僕の幼い体型とのギャップで自分の身体ながら妙な色気があった。自分が完全に女となってしまったことに衝撃を受ける。しかし、一方で男としての心が女としての身体を異性として意識してしまっていることも分かってしまい、複雑な気分になった。
「これからどうなるんだろう……」
男としての自分が消えてしまう恐怖に怯えつつ、ベッドに入る。しかし、不安からなかなか寝付けなかった僕は、美咲のメッセージを思い出しながら女の子の身体を堪能してしまった。大きな罪悪感と引き換えに少しの安心感を得て、そのまま意識が微睡みの中に落ちていった。
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