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第13話 これは温泉ですか? いいえ、修行です!

「ねえ、キノッピー。僕の能力って、これ以上伸ばせないの?」


 昨日の事件で自らの力不足を感じていた僕は、キノッピーに質問をしてみることにした。


「伸ばせないことはないが……。何を伸ばしたいかによるぞ」

「例えば、魔力とかは?」


 昨日は魔力が足りなくて領域を展開できなかったし、展開後に力尽きてしまった。僕としては一番何とかしたい部分である。


「魔力なら、限界まで使い切ったあとで回復させれば少しずつ増やすことができるが……。回復にワシを使うのは無しだからな! 絶対だぞ!」

「……残念」


 キノッピーのバター炒めでお手軽に魔力を増やせると思った僕の目論見は脆くも崩れ去ってしまった。


「だが、案ずるな。急激に伸ばせるわけではないが、全体的な能力の底上げをする方法がある」

「な、何だってぇ! キノッピー、それは一体……」


 手早く力を付けたい僕にとっては物足りなさを感じるが、全体的に底上げができると聞いて僕の心が騒めき始める。


「それは……。温泉だ!」

「えぇっ、温泉?!」


 意外過ぎる提案に、僕は驚きを隠せなかった。


「そんなもので、能力が上がるの?」

「もちろんだ! 魔法少女の力の根源は少女力。すなわち少しでも少女らしくあることで力が底上げされるのだ!」

「それと温泉に何の関係が?」

「温泉に入ることでお肌がプルプルのスベスベになる。お肌が若返ることで少女力が上がると言うことだ。それに温泉に入ることで新陳代謝が活発になり老廃物を排出することで、さらに少女力がアップするのだ」

「おおおぉぉ?!」


 言っていることはメチャクチャだが、何故かキノッピーの説明には説得力があった。しかし、いきなり温泉と言われても……、と僕は戸惑っていた。


「たまには良いこと言うわね。変態ゴキノコ!」


 僕が戸惑っていると、いきなり美咲が現れて僕たちの会話に乱入した。


「み、美咲……お姉ちゃん。いつからいたの?」

「キノッピーのバター炒めのところからよ」

「そんな話していないけど……」

「あれ? 魔力を増やす方法って話してたんじゃないの」

「それは話していたけど……」

「ほら、やっぱりバター炒めだよね? ちょっと見た目はアレだけど」

「さすがに、何度もバター炒めにするのは酷いと思うんだけど……」

「いくらでも生えてくるのに?」

「おい、無限に復活できるわけじゃないんだぞ!」

「まあいいわ。それで温泉ってことだけど、ちょうど私の両親が温泉行ってるでしょ。それのお迎えついでに私たちも行くってことでいいんじゃない?」


 都合が良すぎという気がしないでもないが、そう言われると少しだけ抵抗感がなくなったように感じた。


「ま、まあ。そう言うなら行こうかな。どうせ学校もないし……」

「そうと決まったら、さっそく明日の朝から出発するわよ!」


 それだけ言うと、風のように去っていった。僕は何をしに来たのだろうと思ったが、それを問いただす隙すらもなかった。


 ◇◇◇


 翌朝、僕は美咲の家に行って合流してから、彼女の家の最寄駅に向かった。というのも、その駅から温泉地へは一本で行くことができるのである。


「ん-、いい天気だね!」

「温泉行くだけだし、天気はあんまり関係ないと思うけど……」

「何言ってるのよ。おでかけするんだから、天気が良い方が良いに決まってるじゃない」

「まぁ、それはそうだけどね」


 そんな他愛もない話をしながら、僕たちは切符を買って特急列車に乗り込んだ。一本とは言っても距離はかなりあるので特急列車一択だ。特急列車はほとんどの駅を飛ばして走るため、最寄り駅のこじゃれた街並みから、あっという間に緑の多い地方都市を経て、さらに緑に覆われた田舎町のような景色へと変わっていく。駅の間は森や林のような木々の生い茂った場所が増えていき、そうでないところも田畑のような自然豊かな景色へと変わっていった。


「東京もちょっと離れると田舎みたいな感じになるよね」

「そうね。温泉地も一本で行けるとは言っても、神奈川のさらに端の方だからね」


 僕たちは変わりゆく窓の外の景色を見ながら雑談に花を咲かせていた。そして、目の前には今日のために用意したおやつの山が……。


「なんで美咲のおやつはチータラとかあたりめとかなの?」


 僕が用意してきたものは普通のチョコやクッキー、プチケーキなどの甘いものがメインなのだが、彼女が用意してきたものはチータラとかあたりめ、バタピーなど、どう考えても酒のつまみであった。


「どうせ葵は何の考えもなく甘いお菓子ばかり大量に持ってくると思ったからよ。葵は甘いものだけでも平気かもしれないけど、甘くないお菓子も欲しいからね」

「うっ……。そ、それは……」


 僕は彼女の言葉に何も言い返すことができなかった。なにしろ、おやつに金額制限のない旅行なんて生まれて初めてだったから、ここぞとばかりにリュックに家にある甘いお菓子を詰められるだけ詰めてきたのである。


「全部、おやつは300円いないとか言う学校がいけないんだよ!」

「まあ、その気持ちはわかるけどね……」


 彼女の呆れたような視線が僕にざくざくと突き刺さり、いたたまれない気持ちになる。しかし、今時300円で何が買えると言うのだろう。昭和の時代と違って、何の飾り気のないチョコですら150円とかするのである。僕は哀しみの雄叫びを口には出せないので、思いっきり心の中で叫び続けた。


「ここが箱根かぁ」

「ふふふ、嬉しそうね」

「えっ……。ま、まぁ……」


 リュックに詰めたおやつが半分くらいになった頃、僕は目的地である箱根湯本の駅へとついた。温泉街とはいえ、少し歴史的な趣のある建物が立ち並んだ駅前という感じの風景で、ぱっと見は温泉地のような感じはない。

 しかし、漂ってくる温泉の雰囲気は、これぞ温泉街というものであった。


「結構坂道がきついなぁ」

「耳と尻尾でも出せば良いじゃない」

「もぅ、そんなことしたら変に思われるじゃない!」


 目的の温泉宿を目指して川沿いを歩く僕たちだったが、意外と傾斜がきつくて幼女体型の僕には意外としんどかった。美咲は耳と尻尾を出して身体能力を上げるように言ってきたが、さすがに変身するわけにはいかないだろう。


「異能力も認知されてきているし、普通にしてたらコスプレと変わらないわよ。それに小学生だったら耳や尻尾の付いた服を着ている子もいるしね」

「それはちょっとどうかと思うんだけど……。それに小学生じゃないからね。僕はれっきとした男子高校生なんだから!」

「葵の姿を見て男子高校生だと思う人間は1人もいないと思うわよ……」

「うぅっ……」


 小学生扱いされたことに反論するも、軽く返されただけで何も言えなくなってしまう。女の子になるのはわかるけど、せめて中学生くらいの体型にできなかったのだろうか、などと僕はキノッピーを睨みつけるが、全く意に介していないようだった。


「それはワシの願望じゃないからな? 何が出るかは運でしかない」


 まったく役に立たないキノコだった。


この作品を読んでいただきありがとうございます。

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