第12話 これはお嬢様ですか? いいえ、変態です!
残酷描写(性的描写)多めです。
「あああぁぁぁぁ!」
倒れていた女性は苦悶の声を上げつつ3匹目のネズミ人間を出産していた。
「ちょっと、これ何匹出てくるのさ!」
「うーん、ネズミって多産だからね。5匹くらいは覚悟しておいた方がいいかも……」
1匹目は様子を見ていたお陰で成体と戦うことになってしまったが、2匹目以降は生まれたばかりの無抵抗なネズミ人間を虐殺する作業となっていた。成体は運動能力は高かったものの僕の身体能力とは比べるまでもなかったし、生命力は高くなくて当てることさえできれば、あっさりと一刀両断にできた。
「これって、この状況だと他の人もヤバいよね?」
「だから、さっきのキノコを使うのよ」
「ああ、そっか……。胞子領域! 寄生胞子!」
僕の周り一面にキノコが生えると、瞬く間に緑色に変色する。まるで苔のようなキノコだが、ネズミ人間にも効果があるらしく。ふらふらとやってきてはキノコを食べて新しいキノコの苗床になっていた。
「フフフ、ネズミが人間を苗床にして作ったネズミ人間が、今度はキノコの苗床にされるなんて滑稽ね。フフフ」
「笑い事じゃないから……」
いきなり下ネタを投下してきた美咲を半眼で睨むと、女性から出産された5匹目のネズミ人間を両断する。
「これで終わりかな?」
「そうね。回収しましょ」
そう言って、僕は彼女を抱えると次の女性のうめき声の方へと向かった。そこでは、既に3匹のネズミ人間が女性の出産が終わるのを虎視眈々と狙っていた。そのため僕の存在に気付いていなかったようで、背後から接近して3匹まとめて一刀両断にした。
「これは……、残された人が予想以上に多いね」
「ハツジョウタケ、恐ろしいわね」
僕は5人目の女性を救出したところで、それでもまだうめき声があちこちから聞こえる状況に辟易としていた。美咲はハツジョウタケの恐ろしさを実感していたようだが、悪いのは色欲全開の黒崎たちであって、キノコ魔法を使った僕の責任などは微々たるものだ。
「でも、これ以上は担げないからなぁ。いったん戻るしかないかな?」
「大丈夫よ、ヘリを呼んだから」
上空にホバリングしていたヘリコプターがゆっくりと下降してきた。そして、着陸すると迷彩服を着た男数名が僕の抱えていた女性たちを回収して飛び去っていく。それと入れ違いになるように僕の頭上をヘリコプターが待機していた。
「どうやら、私たちの救出行動が認められたらしいわね。専属でバックアップしてくれるらしいわ」
「うわぁ。それってアリなの?」
「もちろんよ。あちらとしても、私たちが戻る時間で無駄にするくらいなら、一人でも助けて欲しいってところじゃないかしらね」
「いや、それなら……。その人たちが戦えばいいんじゃない? 戦闘のプロでしょ?」
僕はわざわざ待機するなら、彼らもネズミ人間と戦えばいいんじゃないかと考えていた。しかし、それを聞いて美咲はため息をついてかぶりを振った。
「それができれば苦労はしないわ。葵は何事もないかのように倒しているけど、ネズミ人間の動きは並の人間に追えるものではないわ」
「えっ、そうなの?!」
「まして銃器なんて持っていたら、下手すれば同士討ちもありうるわよ」
「そんなに強かったんだね……」
僕が戦った感じだと、素早いことは素早いが、それだけの相手に感じていただけに意外だった。しかし確かに、変身した僕の身体能力は葵を余裕で追い抜くほどであることを考えると、決しておかしいことではないように思った。
僕は救出しつつ、上空のへりに動けない犠牲者を回収してもらう。あらかた回収したところで、僕たちは避難場所のテントへと戻った。
「行方不明者が3名か……」
「3人とも男性だし、食い尽くされた可能性が高いわね」
「死者が10名……。この規模にしては少ない、のかな?」
「まあ……。死んでいないだけ、という状況の人がかなり多いからね」
死者10名も全員が男性である。身体の大部分を食われながらも辛うじて身元が特定できる程に無事だった人たちである。しかし、ネズミやネズミ人間に襲われてネズミ人間を出産した女性の数は30名を超えていた。
「これもハツジョウタケの効果なのかな?」
本来なら食欲の方が旺盛なはずのネズミたちが繁殖を優先していたのも、ハツジョウタケのお陰というところだろう。それで死者や行方不明者の人数が抑えられたのは皮肉な話である。
「まあ、数字としては低いかもしれないけど、被害は甚大だわ」
その言葉に僕も顔を曇らせる。
「皆さん、ご苦労様でした。生存者の救出が完了しましたので、これより最終作戦を実行します」
急遽設置された対策本部の本部長が宣言すると、影山が異能力を最大出力で展開する。先ほどまでのネズミだけを殺すような弱いものではなく、あらゆる生き物を殺し尽くすような圧倒的な力であった。
「凄い……。これがSランクの力……」
僕は彼の放つ『死』そのものと言うべき異能力を見て言葉を失った。そんな僕の代わりとでも言うように、異能力の範囲内からは無数のネズミやネズミ人間の断末魔の叫びが聞こえてきた。
「皆さん、本日はお疲れさまでした。これにて作戦全段完遂いたしました。今回の活躍による成績の反映につきましては、後日、一人一人に通達されます」
本部長の終わりの言葉を受けて、僕たちは解散して家に帰る。異能力の影響からか、帰り道にはネズミやネズミ人間だけでなく、虫や動物などの死体が散乱していたが、脅威の気配はなく、本当に平和が戻ってきたのだと痛感しながら、家への道を母親と歩いていく。
◇◇◇
「ふふふ。あの子、とっても興味がありますわ。小学生かしら?」
「いえ、異能第七学園の高等部所属でございます」
「あら? 見た目だけでなく心も幼く見えるのですが、気のせいでしょうか? それに、先ほどの活躍は第七とはとても思えませんわね」
「どうやら、先日まで測定不能だったようで、先日、異能力を覚醒したようです。その際に、男子高校生からあの姿に変わったようで……」
「ふふふ。面白い、実に面白いですわ。是非とも、私の手で開花させてあげたくなりましたわ。石上、彼女の身辺調査をお願いしますわ」
「かしこまりました。お嬢様」
「ふふふ。楽しくなりそうですわね」
僕は背後から2つの視線が浴びせられていることには気付いていたものの、そのような話をされていたと知るのは、だいぶ先の話だった。
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