第1話 これは夢ですか? いいえ、現実です!
この作品は以前連載しておりました「TS魔法少女とキノコの国の魔王様~異能バトルに巻き込まれた僕は、魔王の胞子によってケモミミ魔法少女を始めることになりました~ 」の改稿版となります。
基本的な設定は変わっていませんが、細かい部分はだいぶ変えております。
上記の作品はこちらに置き換える形で更新停止となります。購読いただいていた方には恐縮ですが、本作でも楽しんでいただけたらと思います。
なるべく展開が追い付けるように、7月中は毎日3話(朝昼晩)で更新いたします。
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「美咲お姉ちゃん。何してるの?」
夕暮れの公園、私――相沢葵は幼馴染の新城美咲と向かい合って立っていた。そして、彼女の手に握られていたナイフを見て、心がざわつき始める。
「そのナイフは何? まさか私と戦うなんてことないよね?」
「そのまさかよ。葵は7つある秘石のうち6つを集めてしまった。あともう1つ――私の持つ秘石を賭けて戦わないといけないの」
「そんな! なんで美咲お姉ちゃんが秘石を持ってるの?」
「それは私の異能が優れているからよ」
美咲は自嘲するような笑みを浮かべて言った。それは自分だけでなく世界すらも嘲るようなものだった。
「でも、私と同じ底辺異能者だったんじゃないの?」
「そうね、でもアイツ等は気付いていて……。そして、問答無用に秘石を私に押し付けてきたの」
「それじゃあ、願いは? 叶えたい願いは無いの?」
7つの秘石、それは願いを叶えると言われる賢者の石の欠片と言われているものであった。
「無いわ。でも、知っているでしょ? 秘石はお互い惹かれ合い、そして、戦いを求めると。元に戻るためにね」
「それは……。でも、私は美咲お姉ちゃんとは戦いたくないよ!」
私の叫びに、しかし、彼女は大きくかぶりを振った。
「葵は強いのね。でもダメよ。アイツ等が監視している。もし私たちが戦わなければ、2人とも殺されてしまうわ」
「アイツ等って誰だよ! だったら、私が全員……」
「無理よ。『――』のヤツらは、既にここを包囲するくらいたくさんいるの。だからね、葵が勝ったら、すぐに願いを――」
そう言いながら、彼女は私に向けてナイフを振りかぶった。
「――夢かぁ」
目を覚ました僕は、先ほどまで見ていた夢の内容を反芻する。もっとも、内容があまりに非現実的過ぎて、まるで別の世界のような感覚であった。
「そもそも、自分が自分じゃないような感じなんだよなぁ」
自分のことを『私』と呼び、美咲のことを『美咲お姉ちゃん』と呼んでいる夢の中の自分は、夢の中でこそ自分自身だという認識はあるものの、起きてから思い返してみると明らかに別人だった。
「それに……賢者の石とか秘石とか、何かのゲームの設定かよ。そして、何よりも……幼馴染と戦わなくちゃいけないなんて、まるで中二病の世界じゃないか!」
妄想だと割り切ろうにも不可解な夢に憤りながらも、枕元に置いてある目覚まし時計を見た。
「ん、まだ少し早いけど……。変な夢をみたせいで目が覚めちゃったよ」
僕はベッドから這い出ると、台所へと向かう。そこでは母が朝食の準備をしていた。
「あら、葵ちゃん。今日はずいぶん早いのね」
「変な時間に目が覚めちゃったからね。それと、葵ちゃんはやめてよ!」
「いいじゃない、可愛いんだから、ね?」
「ね? じゃないよ、もぅ……」
僕は洗面所で顔を洗ってから台所に戻ってくると、朝食の準備がされていた。朝食はトーストが2枚と目玉焼き、それとグリーンサラダというシンプルなものだった。
「いただきます!」
僕はいつものようにバターをたっぷりとトーストに塗った。そして、目玉焼きには塩を、サラダには和風ドレッシングをかけた。
「ごちそうさま!」
ささっと食べ終えた僕は学生服に着替えて学校へと向かう。電車に乗って学校の最寄り駅に着いた僕は、駅前で幼馴染の美咲と合流する。彼女の家は僕の家から歩いて10分ほどなんだけど、最寄り駅の路線が違うので通学は別々だった。
「おはよう、美咲」
「おはよう、葵」
短い挨拶をして、僕たちは目的地である異能第七学園へと向かう。15年ほど前に発見された異能力という力は、今となっては大なり小なり持っているものだと言うことが知られていた。その異能力を開発、強化することに特化した学校として政府が異能第一学園から異能第七学園を創設した。
「異能力って言ってもピンとこないんだよなぁ」
「何言ってんのよ葵、異能力の学校に行っているのに」
「そんなこと言っても、僕も美咲もどんな異能かすら分からないじゃない」
「でも、無い訳じゃないんだから希望は残ってるでしょ?」
「そうは言うけど、Fランク学校だからなぁ」
第一学園から第七学園はそれぞれ異能のランクとしての別名も持っていて、第一学園はSランク、一方の第七学園はFランクと呼ばれていた。
「Fランクって、異能力が弱い学生だけじゃなくて、異能力が計測できなかった学生も入っているから、逆転の可能性もあるらしいけどね」
「そりゃぁ、実際にそういった人が過去にいたみたいだけど、1%にも満たない確率じゃない」
「それでも、希望はあるでしょ。私たちはまだ計測できなかった方なんだから」
「そりゃあね」
7つの学園のうち、最底辺と呼ばれる第七学園だが、極々稀に優秀な異能力者が輩出されることがある。その理由が異能力が特殊すぎて、どのような異能力か計測できなかった場合である。
「一昨年、卒業した宇津木先輩は『異能逆算』だったんだよね」
「そうそう、どんな異能力でも瞬時に逆算して消し去る能力だったんだよね。条件はあるけどSランクの異能すら消しちゃうから、今や防衛省勤務で出世頭らしいわよ」
「そんな夢のある話だったらいいんだけどね」
しかし、実際に第七学園に通う生徒の大半はほとんど異能力を持っていないに等しかった。一方で自分たちより優秀な異能力者を輩出することもあることから、第一第二を除く学園から嫌がらせを受けることも多い。もちろん、そう言った芽の出ていない優秀な学生を潰す目的である。
「一週間前は第六の学生の襲撃があったんだっけ?」
「そうそう、第六なら第七と大して差はないから撃退はできたらしいけど、何人か怪我人が出たらしいわね」
「政府は何も言ってないの?」
「うん、襲撃があったことすら公表されていないわ。まあ、最底辺の第七の学生が数人怪我したくらいじゃ、税金の無駄だということじゃないかしらね」
そんな話をしながら僕たちが学園に到着すると――校舎が燃えていた。
「いったい何が?!」
「第三の生徒だ、第三の生徒が襲撃してきやがった!」
逃げてきた生徒が僕の質問に大声で答える。
「第三の生徒だって? 何で……」
「宇津木先輩が昇格したのが気に入らないんだとか……第七のくせに、とか言っていたな」
「それはそうと他の人は?」
「大半は逃げたけど、何人かは中で戦っているはずだ」
「くそっ」
「ちょっと、葵!」
僕は美咲の制止を振り切って校舎の中に入っていく。炎をかいくぐってたどり着いた先には炎を纏った派手な服を着たヤンキーみたいな男が第七の学生たちを燃やしていた。
「ひゃははは、そうら燃えろ燃えろ! 第七の分際で俺たちよりも偉くなるなんて生意気なんだよ!」
「やめろっ!」
僕は男に向かって叫ぶと、男はこちらを振り返って残酷な笑みを浮かべた。
「へえぇ、またゴミが1匹追加されたか、文字通り飛んで火に入る夏の虫ってヤツだな。死ねよ!」
命を刈り取ろうとする炎の前に、僕はあまりに無力だった。死の恐怖に、思わず心の中で助けを求めてしまう。その瞬間、僕の前に光の柱が立ちふさがった。
「ああん? 何だそれは?」
炎を防いだ光の柱が砕け散る。すると、そこには手足の生えたキノコが浮かんでいた。
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