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原初精霊の力

「ありゃ魔法を制御できてねぇな」

 近づいてくる人影を見据えてアルベルトは呟いた。

「頼めるか?」

 近づいてくる敵の処理をしながら副団長へと目線を送ると頷かれる。

「お任せください」

 その言葉と共に後ろへ下がったレクシアと入れ替わる形でアルベルトは前へ出る。

「帝国の腰抜け共め!俺はここだ!王国騎士団長アルベルト・グローリア・ロートスが相手だ!!!」

 敵を引き付けるように叫びながら移動する。

 何してるんですか!とアルベルトの危険な行動にレクシアは叫びそうになったが、動く先を見て口をつぐんだ。

「もう…失敗できないじゃないですか」

 かわりにそう呟いて魔法の発動準備を始める。

 アルベルトが敵をいなして踏ん張っているのに自分が失敗することは許されない。

「水よ、壁となりて……」

 防御には向かない水の壁を生成する。

 タイミングが一瞬でも早ければ効果は無く、一瞬でも遅ければ大きな被害を被るだろう。

 そしてその瞬間が訪れるのを待ち、口を開いた。

「我らを守りたまえ」

 その瞬間、アルベルトが下がると同時に彼の背後に分厚い水の壁が出現した。


***


 敵味方双方を吹き飛ばす勢いで飛んでいた魁とシルフィは突然現れた水の膜に包まれていた。

「ごぼごぼっ!?」

 目を閉じ気管に水が入らないように口を塞いでいると腕を掴まれ、水の外へと引っ張られていく。

「ぷはぁっ!」

「派手なご登場だなぁ、2人とも無事か?」

 そうして目を開けると、騎士姿のダンディなおじさまが濡れた髪をかき上げながら声をかけてくる。

 隣を見るとシルフィもずぶ濡れではあるが、五体満足の状態で息を切らしていた。

「あ、ありがとうございます…」

 状況が分からないまま助けて貰ったお礼を言う。

「なぁに、ちょうどこちらもさっきののおかげで助かったからおあいこ様だ」

「ロートス団長!シルフィ様!」

 声のする方向を見ると、見目麗しい女性騎士がこちらに向かって走っていた。

「ああ、全員無事だ、流石だな」

「団長からの頼みなのですから当然です」

 というかこの人騎士団長なのかよ。

「ごほっごほっ、助かりました、ありがとうございますロートス騎士団長、ブレイバード副騎士団長」

 シルフィがお礼を言っているため、自分もそれに倣って頭を下げた。

「いえ、ご無事で良かったです。して、この方が例の…」

「はい、召喚者様です。彼はこことは別の世界から来ているため、不慣れな魔法を初めて使ったため先程のことは責めないであげてくださいね」

「初めて…ですか、分かりました」

 女性2人が話しているのを眺めているとチョイチョイと騎士団長に手招きされる。

「なあ、契約したんだろ?どうだった?」

 からかうような声で言われ、シルフィの胸に手を突っ込んだことを思い出してしまう。

「なななっ!?」

 耳ざとく聞きつけた副団長が団長に向かって叫ぶ。

「団長!今はそれどころじゃないでしょう!」

「悪い悪い、いや、この少年が緊張していたみたいだからほぐしてやろうと思ってな」

「もう…」

 今のやり取りを見てこの2人仲が良いなと思いながら、さっきの言動で緊張していた体から程よく力が抜けていることに気づいた。

「すみません、ありがとうございます。白城魁と言います、ファミリーネームが白城です」

 団長に悪役を演じさせた謝罪と感謝を同時に述べ、名前を名乗る。

「自分は今からどうすればいいですか、ロートス騎士団長」

 そうして指示を貰うべく団長の目を見つめた。

「ほぅ…そうだな、では先程吹き飛ばした敵の掃討を頼もうか」

「団長!?」

 副団長が驚いたように声をかけるが団長はそれを無視してシルフィに声をかける。

「ウィンド様もよろしいですか?」

「…分かりました」

 一瞬の逡巡の後シルフィも返事をする。

「まあ見てろって、ハクジョウ少年、頼んだぞ」

「はい!」

 戦うことは怖いがやらなければこちらがやられる。

 そうして自分が来た道を見ると、吹き飛ばされていた兵士達は呻きながらも立ち上がりつつあった。

「行こう、シルフィ。今度は失敗しない」

「信じていいのですね?」

 お互いに顔を見合わせて笑うと手を繋いだ。

 さっきのは失敗だった。

 しかし、風といえば日本には有名なものがある。

「団長…あのような少年に任せて大丈夫なのでしょうか?」

「大丈夫じゃなかったら俺の目も曇ったってことになるな、ガハハ」

「いや笑いごとじゃないですよ」

 後ろから何か聞こえるが集中する。

 広範囲に渡って雨を降らしながら時には家すら吹き飛ばしてしまう災害。

「『台風』」

 そう呟いて発動すると敵の周囲の様子がガラッと変わった。

「これは…」

 腕を組んで見ていた団長もその雰囲気を感じ取り、声を漏らす。

「な、なんだ…?」

 体が感じたことの無い感覚に敵兵達も困惑した声を上げる。

「もっと強く…」

 そうして自身が思い描く台風を想起する。

 反時計回りに内側へ吹き込み、上空へ舞い上がる風。

 味方が巻き込まれないように限定された範囲だけ風が吹くように。

 しかし何もかもを吹き飛ばすぐらいの強い風を。

「いけ」

 自分が発した声と共に何もかもを吸い上げる暴風が敵陣にのみ吹き荒れた。

「う、うわあああ!?!?」

「体がっ!浮いてっ!?」

「やめろぉ!死にたくなーい!」

 今ならなんでも出来そうな全能感に酔いそうになるが、その感覚に呑み込まれないように気をしっかりと保つ。

「…これはとんでもない逸材かもしれんな、レクシア」

「ええ、そうですね…」

 耳元で鳴る風のせいで2人がなんて言ったのか聞き取れ無かったが、それより目の前の敵に集中する。

「あっちにいってしまえ」

 台風を戦場の外側に向かわせると、その後には敵兵は誰一人残っていなかった。

「ふぅ…」

 気持ちを抑えるように息を吐き、心を落ち着かせる。

「これで、いいんでしょうか」

「ああ、よくやった、少年」

 後から教えて貰ったが、この規模の魔法を起こすことは原初精霊のみであるらしかった。

 だがそんなことよりも初めての戦闘に勝ったことに安堵していた。

「ロートス騎士団長!」

 団長が振り返って声をかけてきた人物を見る。

「先程の魔法で敵兵達は怖気付いたようで逃げ帰っております!」

「そうか、皆の衆!俺たちの勝利だ!」

『おおおぉぉぉぉぉ!!!!!』

 まるで地鳴りのような雄叫びに驚いてたたらを踏んでしまうが、気合いで持ち直す。

 そして喜ぶ兵士達の向こう側に見えてしまう。

 頭を割られた死体、腹に穴が開いた死体、歪に体がねじ曲がった死体、黒焦げになった死体、全身を切り刻まれた死体、顔が潰れた死体、手足が無くなっている死体、全身が串刺しになった死体

 血溜まりの中に浮かぶ大量の死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体

「うっおええええええっ!!!」

 あまりの惨状を目の当たりにして口から吐瀉物が湧き上がるように出てしまう。

「カイさん!?」

 シルフィが駆け寄り、背中をさすられる。

「お、俺は…!?」

 大量の死体は王国兵と帝国兵が争った結果であることは明白であるが、自分もさっき戦ったのだ。

 空高くに飛ばされた人達がどうなるかなど考えずとも明らかであろう。

「俺がっ、殺しっ!?」

 過呼吸を起こしてヒューヒューと口から息が漏れる。

「しっかりしてください!」

「ウィンド殿、すみませぬ」

 声が聞こえたと思ったら頭に強い衝撃が来て目の前が真っ暗になる。

 最後に見えた光景は心配そうな顔をしたシルフィと、口を真一文字に閉じて手を握りしめた騎士団長の姿だった。

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