不穏な予感
王国からの迎えを待つこと十数分。
待てども待てども迎えは来ず。
「なあ、迎えってこんなに時間かかるものなの?」
疑問を投げかけるとシルフィも困惑したように答えてくる。
「いえ、召喚成功した時に光が溢れるのでその光を合図にこちらへ来る手筈でした。なのでちょっと遅すぎますね……」
やっぱり遅いのか……いや、待てよ?
「なあ、ちょっと嫌な想像なんだけどきいてくれるか?」
「はい?何でしょうか」
儀式の準備は王国の人がした、つまりシルフィ自身ではしていないこと、そして予定していた所とは別の場所に召喚されたこと。
この2つが意味することとは。
「帝国のスパイが王国にいて、召喚儀式も把握されてて迎えの人が襲われてるってことはない?」
「えっと、それは……」
少し考えると、その可能性があることに気づき、シルフィは顔を青くした。
「今すぐここを移動しましょう!」
「迎えが来ないなら自分で動くしかないしな、行こう」
シルフィの先導で草原を駆けていく。
願わくばこの予想は外れていて欲しいものだ。
・・・
ところ変わってシルフィの送迎を任されていた王国騎士団。
彼らは絶賛帝国兵に囲まれ、襲われていた。
「うーむ、どうしたものか」
王国騎士団の団長であるアルベルド・グローリア・ロートスは襲撃を受けながらものんきな声を出している。
「その首貰い受けるっ!」
「今考え事してるから邪魔しないでくれよな」
のんべんだらりとしているように見えるが、敵の攻撃を正確にいなし、一刀の元に斬り伏せている。
騎士団長ともあろうものが奇襲程度で狼狽えるなどあってはならない……という考えがあるわけでもなく、今日日これまで生きてきた上で出来上がった性格なだけである。
彼は元が平民の出であるが、剣で敵うものは無く、魔法も扱え、そして状況判断が素早く正確にできた。
それ故に騎士団長まで成り上がったのだ。
「ロートス団長!」
ふと背中に声を掛けられる。
副団長であるレクシア・フォン・ブレイバードの声だ。
「分かってる」
返事をしながら正面の敵兵の横をすり抜け、振り返りながら剣を振るう。
「燃えよ」
その一言で剣に刀身以上の長さの炎を纏わせたことで背後から襲おうとしていた敵と合わせて2人の胴を薙ぐ。
「ブレイバード副団長、原初精霊殿はこちらと合流するよう動くと思うか?」
「恐れながらも無いと思います」
次の敵が来るまでの短い間ではあるが後の動きを決める為に相談をする。
「であろう。だが召喚された者はどう動くと思う?」
「まずは現状を知るための話をウィンド様とされるかと……まさか!」
「確信は無いがな。だが悪い賭けではなかろう?」
今回奇襲を受けた原因は騎士団に密偵がいたからであるという前提が両者共にあった為、有事の撤退ルートも把握されていると考えている。
副団長はそれ故にこの場所から動くことは下策であり、しかし留まり続けることで状況が良くなるわけでは無いとも思っていた。
しかし団長だけは別の可能性があることに気づいたため、それを共有したのだ。
ここに留まって敵を迎撃しろ。
それを言うのは簡単であるが、先行きが見えなければ士気も下がるのみである。
だから直接言わずに気づかせるように話したのだ。
「皆の者!もうひと踏ん張りだ!ここで殲滅するぞ!」
「「「おおぉぉぉ!!!!」」」
レクシアは見目麗しく、性格は誰にでも分け隔てなく優しい、更に扱える魔法属性は癒しの属性とも呼ばれている水である。
それ故に騎士団に舞い降りた聖女だの優しさの権化だの我らの戦女神だの色々と呼ばれている。
そんな彼女の号令だからか兵達の士気も上がるというものだ。
「まあ助かりはするのだがもうちょっと俺の号令でもやる気出してくれないかね……」
という騎士団長のボヤキは兵士達の歓声にかき消されているが副団長だけは聞き取れていたようで
「ですが皆も貴方のことを信頼していますよ。私は言わずもがなです、アルベルド団長♪」
「知ってるさ」
他の兵に聞こえないからとファーストネームで呼んでくるレクシアにため息をつきながらも嬉しそうな顔をする団長であった。
「さぁて、もうひと踏ん張りするかね」
・・・
走ること数十分、なんでそんな遠くに待機させてあるんだとシルフィに聞こえないように愚痴りながらも駆け抜けた先、兵士達の怒号と剣戟の音が聴こえてきた。
「嫌な予想が当たっちまったよ……」
「ですが最悪の事態にはまだなってないみたいです!急ぎましょう!」
シルフィは俺の手を取って走る速度を上げていく。
視界の先に兵士達が争っているのが見えた。
そういえば戦いとかしたことないんだけど行って何すればいいんだろう……。