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いつもお読みいただきありがとうございます!

本日二話目です。

 バレていた。


 グレンは家令たちに連れて行かれ、私はパーティー会場に戻った。家令さんが気の毒そうに「まだチョコレート残ってましたよ、ぜひ」って……ねぇ、私どれだけチョコレート好きだと思われてるの⁉ 好きだけど!


 パーティーはもうお開きになるようで、参加者たちは帰り始めている。


「グレンは?」


 私を見つけたレイフが早足で近付いてくる。


「大丈夫」

「体調不良だって説明されたけど違うだろ」

「うん、でも大丈夫だから」


 どこまで説明していいか分からないのでそう繰り返すしかない。


「どうせ、どっかの令嬢に媚薬でも盛られたんだろ」


 ここでもバレてる。


「それって普通なの?」

「よくある手口。それで目撃させて婚約か、最悪は口止め料として金もらおうってとこ。グレンは公爵家の唯一の後継ぎだし。でも、公爵家のパーティーでやるとはね」


 お貴族様、怖い……。


「でも、俺としてはグレンが引っかかってくれた方が良かったな」

「それって、友達として最低じゃない?」

「そうしたら俺は友達から君を奪ったわけじゃなくって、友達が裏切ってしまった君を引き取った形にできるから」


 グレンのあれこれで有耶無耶になっていたが、レイフから「結婚しない?」なんて言われたのは今日だった。ぞっとする。

 

 レイフにはとっくに私の正体はバレていて、グレンにもバレた。私はこれからどうしたらいいんだろう。とりあえず、このドレスから着替えて……逃げる?


 グレンは何て言ってたっけ? なんか、可愛いとか……か、可愛いって言われたような?

 あの時は正体がバレていることに動揺しすぎてちゃんと頭が働いていなかったが、グレンは怒っていなかった……はず。でも、可愛いって何? プリシラじゃなくて良かったってどういうこと?


 顔に熱が集まりかけたが、目の前のレイフの存在を思い出す。ぞっとしたり、赤くなったり忙しい。


「あなたは外国のお姫様と結婚しなくていいの?」

「王女たちが他国に嫁いでるからさ。俺はスペア兼種馬で残るの」


 タネウマ? タネウマって何?

 頭の中で疑問を転がしていると、レイフがドレスに目を向ける。


「それってグレンのためのドレス?」

「これは先代公爵夫人が」

「あら、プリシラ嬢はレイフ殿下と仲がよろしいのね」


 会話の途中でどこからか令嬢の声が聞こえた。後ろを振り返ると、見慣れない金髪のご令嬢が立っている。明らかに年上だ。

 ちなみに、私にとって見慣れているご令嬢はブレアくらいなんだけどね。プリシラ、友達がいなさすぎるよ……。


「あれ、グレン狙いの公爵令嬢」


 レイフがぼそっと呟く。へぇぇ、グレンって人気あるんだ。レイフは人気ないのかな? 王子様なのに。


「デンカはグレンの友達ですから」


 殿下ってうまく言えなくて、おかしな言葉になってしまった。公爵令嬢という人はやや表情を消した。


「グレン様はどこかしら」

「どこかにいます」

「プリシラ嬢は婚約者なのに、グレン様とあまり一緒にいないのね」


 すごい、あの髪型どうやってるんだろう。くりんくりんだ。


「え、婚約者ってずっとべったり一緒にいるのかしら? では、あなたの婚約者はどちらに?」


 公爵令嬢の顔が強張って、レイフが後ろで笑った。


「お姉さま!」


 この状況で登場人物はお腹いっぱいなのに、ブレアが勢いよく駆けこんできた。


「桃のデザート、ちゃんとお姉さまの分も取っておきましてよ!」

「まぁ、トンプソン伯爵令嬢を使用人のように扱うだなんて」


 両手にデザートのカップを持って登場したブレア。ご令嬢は何か言っているが、レイフはお腹を抱えて笑っているのでよく聞こえない。


「わぁ、ありがとう。食べたかったの」

「お姉さまはなかなかお戻りにならないのですから! 私は寂しかったのに!」

「グレンと一緒にいたから」


 うっかり事実を口に出してしまうと、ブレアの目が好奇心で輝く。


「お姉さまはパーティー会場にいらっしゃらなかったから……いえ、お姉さまが出て行かれてからグレンおにいさまも追いかけるように出て行かれたから……ふふふ。それでおにい様は体調不良ですかぁ?」


 なんだかブレアに盛大に誤解されている気がする。私は誓って何もしていない。レイフの脛を蹴っただけで、グレンは蹴ってないし毒も薬も盛ってない。


 あ、公爵令嬢さんがどこかへ行ってしまった。


「行ったな」

「レイフ殿下は側にいらっしゃったのに、どうしてお姉さまを助けてくださらなかったのですか」

「助ける必要ないでしょ。彼女は一人で対処できるんだから」


 そうだろうな。私もレイフの助けなんて一切期待していなかった。

 レイフはおそらく、誰かに助けてもらったという意識や体験が希薄なのだ。だから愛されて育てられたと丸わかりなブレアみたいに、すぐ体を張って誰かを庇うということがない。まぁ、ブレアはチョロすぎるというか危なっかしい。


 私は孤児院の下の子たちを守ってきたつもりだったけど……レイフは王子様だからそもそも環境が違うもんね。


「あぁ、ここにいたのね」


 桃のデザートを食べて、ブレアとレイフを見送ると先代公爵夫人に声をかけられた。ぎゅっと抱きしめられる。


「チョコレートはちゃんととってあるわよ。後で部屋に持って行かせるわ。戻っていなさい」

「はい、ありがとうございます」


 そうだ、チョコレート! 食べなきゃ!


 待ってよ。グレンにバレているということは……先代公爵夫人にもバレているのだろうか、私の正体が。だってこの二人、とっても仲がいい。公爵夫妻は忙しそうだけど、グレンとギスギスはしてない。エルンスト侯爵家とは全然違う。


 こういうのが家族っていうんだろうか。

 さっき先代公爵夫人に抱きしめられた時、あったかかった。エルンスト侯爵夫人の時は冷たくて苦しかったのに、そんなこと一切なかった。


 あれが本当の家族かぁとほのぼの思いながら逃げる算段でもしようと、ドレスから着替えてチョコレートをしっかり食べて夜のうちに部屋を抜け出したのだが、使用人にすぐ見つかった。


 その日から何かしようとしても、すぐ使用人に声をかけられることになってしまう。ねぇこれって……監視されてる?

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