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いつもお読みいただきありがとうございます!

21時にも更新します。

 もう一度彼の足を蹴るが避けられて空振りした。


 レイフのことは最初から苦手だった。彼と関わると碌なことがない。平気でニコニコしながら嫌味を言ってきて、今度は私の正体を知って脅して。一緒に誘拐されても連帯感なんて生まれるわけがない。誘拐事件から会わないようにしてたのに!


「グレッグは逮捕されたよ」


 その言葉に思わず足の動きを止めた。

 タイホ? タイホってあの逮捕?


「グレッグは警備隊の備品を横領しててね」

「なんで、グレッグはそんなこと」

「そりゃあお金に決まってるよ。名誉のためにそんなことするわけないだろ」


 この人のこういうところが嫌い。

 どうせお金に困ったことなんてない王子様でしょ。


「引き取られた先でも暴力振るわれてたらしいからさ。君のこと覚えててペラペラ喋ってくれたよ。グレンの前でも。だからグレンもいい加減君の正体に気付いたんじゃない? 何か言われた?」


 ゆっくり首を横に振る。

 グレンも彼に会ったのか。私が、誘拐事件の時に凝視してしまったから? そんなに怪しかった?


「何も言われてない」

「ま、時間の問題だよね。フォルセット公爵邸にとどまってるんだから、よりプリシラ嬢じゃないってバレやすくなる。俺の最初の提案受け入れとけばよかったでしょ?」


 お金あげるからグレンの前から消えろという提案だったか。


「さっさとグレンにばらせばいいでしょ。宝石店でもニセモノって言ったり、グレッグのところに一緒に行ったりなんてまどろっこしいことしないで」


 この人のこういう所も嫌い。

 さっさとすればいいのに、私をおちょくって面白がっている。お貴族様も王族様も暇なのだろうか。今も嫌な笑いを浮かべて私を見下ろしている。


 誘拐されて傷ついて欲しくないなんて言いながら、こんな風に楽しそうに追いつめてくる。最低。


 上にあるオレンジの目を睨みつける。

 王子様なんて柔らかいパンやエビやチョコレート毎日食べて威張ってるだけでしょ。横領してたあの孤児院でさえどうにもしてくれなかったんだから。


「私はグレンと結婚したらさっさと出て行くって言ってるでしょ。どうせ今逃げたって侯爵に追手をかけられるんだから」

「そうだねぇ、フォルセット公爵家が援助をもう打ち切るって言ったからエルンスト侯爵は焦ってるみたいだよ」

「だったら無茶言わないでよ。成人したらなんとかして出て行くと言ってるんだから。根回しとか準備とかいろいろ必要なの。あなたはグレンの新しいお嫁さん候補でも見定めたら? 今日みたいにプリシラ病みたいなご令嬢がいるかもしれないし。次の婚約者が、あなたの言いなりになってくれるか分からないでしょ」


 ガイコクゴも少し勉強すれば仕事の幅が広がるだろう。刺繍は速さと正確さだけは褒められるからお針子もいいかもしれない。自分で図案を考えて刺繍するのは無理だ。

 この国の他の地域のこともいろいろ勉強しているから、住みたい場所もしっかり決めて。


「プリシラ病か、いいね」


 レイフは笑いのツボに入ったのかケラケラと笑った。その隙に壁と彼の間から抜け出そうとして腕を掴まれる。


「俺と結婚しようよ」

「は?」


 レイフの前ではあまり取り繕っていなかったが、今はプリシラのような反応をしてしまった。オレンジの目がとんでもない至近距離にある。


「公爵夫人だって無理なのに、なんで第二王子のお嫁さんにならなきゃいけないの」

「俺、最近公務頑張ってたから外交関係を任せてもらえそうなんだよね。爵位はもらえるけど領地はないし、俺と結婚すれば外国飛び回れるよ? それなら侯爵の追手も怖くない」

「国王になるわけじゃない王子様が将来どうなるかなんてよく分からないけど、なんで結婚する必要があるの。それなら私を外国に連れてって置き去りにするだけでいいでしょ」


 国内にしか目を向けていなかったが、お金をためて外国もいいかもしれない。レイフとの訳の分からない不毛な会話から若干の希望を無理矢理取り出した。


「あなたは外国のお姫さまと結婚でもすれば?」

「グレンのこと好きでもなんでもないだろ? だったら相手が俺でもいいはずだ」


 掴まれた腕を振り払おうとするが、力が強くて無理だった。唇を噛むとレイフは少しばかり力を緩める。


「なんのつもりよ。冗談にしては酷すぎる」

「結構本気なんだけど」


 嫌々ながらレイフを見上げると、意外にもニヤニヤした笑いではなく真剣な表情をした彼がいた。


「逃げるために誰でもいいならグレンじゃなくて俺にしなよ。金持ちで恵まれて愛されたグレンより、俺の方が君のこと分かるけど。誰にも愛されない、期待されないなんてグレンに分かるわけないだろ」


 耳元まで近づいてきてレイフが喋る。

 なんだ、レイフは気付いていたのか。同じ香りがするとは思っていたけど。自分が愛されないってことに。それでもここまであがけるものなんだ。諦めた私と諦めずにあがくレイフ。


 だから私、この人のこと嫌いなんだ。


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