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いつもお読みいただきありがとうございます!

21時にも更新します。

 プリシラが戻ってこないまま、グレンの誕生日パーティーの日が来てしまった。

 

 ぼぅっと窓から外を見たり、幽霊やあの世に関する本ばかり読もうとしたりして、侍女たちにとても心配された。エルンスト侯爵家ではここまで侍女が側にいることはなかったので、監視されているようでとても不便だ。


 プリシラはまだ怒ってるのかな。寂しいから早く帰ってきてほしいな。こんなに静かなのは落ち着かない。あの喚くキィキィ声は苦手だったけど、今では懐かしい。


 侯爵夫人も捕まってないし、告発もされていないから戻って来てくれないかな。このパーティーにエルンスト侯爵夫妻は招かれていないんだけどね。


 プリシラは去り際に変なこと言ってたけど、グレンが私を好きになるわけがない。でも、プリシラはグレンのこと好きだったのかな? それならなりかわった私がフォルセット公爵邸にいるのは面白くないだろうけど……正直、元孤児に恋愛するような余裕があるわけない。そんなのは余裕のある人たちのやることだ。


 恋愛ってチョコレートやエビくらい贅沢なの、私にとっては。

 だって、誰にも愛されないって分かっているのにそんなことに労力なんて使いたくない。3番なんだよ、私。生まれた時から。だから、誰かの1番、ましてや2番にもなれない。


 今フォルセット公爵邸の方々は優しいけど。みんな、可哀想なプリシラに同情してるだけ。そんな同情は長くは続かない。


 公爵夫人になるための教育も始まっちゃったけど、刺繍とダンスしか合格は出ていない。ガイコクゴとかリョーチのあれこれとか難しい。

 刺繍は侍女たちにも「は、早いですね」と言われた。刺繍したハンカチを「坊ちゃまに差し上げては?」なんておだてられてイヤだったが、グレンは律儀に捨てずにハンカチを使っているらしい。真面目な人。


 いろいろあるけど大丈夫だよ、プリシラ。プリシラが勉強嫌がるのすごくよく分かる。でも、私がちょろっとやって結婚したらすぐ逃げるから。

 あれ? でもそうしたらグレンはプリシラじゃない人と結婚するよね。それはプリシラにとってどうなんだろう。なりかわった私が結婚したままなのと、まったくの他人とじゃ。



 フォルセット公爵家でのパーティーは、エルンスト侯爵家のそれよりも数段豪華である。

 パーティーが始まって最初のうちはグレンと一緒にいたが、さすがは次期フォルセット公爵様だ。ひっきりなしにいろんな人が挨拶に来て難しい話をしている。

 これはプリシラが「つまんない」と愚痴るわけだ。


 グレンの側から離れて食事をしに向かった。なんて広い会場だろう。広いのでだいぶ歩かないといけない。好奇の視線があちこちから刺さるが、今日はリボンは一つもついていないはずだ。何かおかしいだろうか。右手と右足が同時に出ているのだろうか。プリシラがいないとうっかりして無意識にやっているかも。


 でも、さすがプリシラ。嫌われてるね……うっかり忘れてた。


「あら、まだ図々しくグレン様の婚約者の座に居座っているのかしら」

「今日のドレスはかなりマシだけど、怪我をして良かったのではないの?」


 こういう場面って本当にあるんだ! 小説の中だけだと思ってた!


 エビを食べていたら四人の令嬢にいつの間にか囲まれていた。

 そうだよね、分かる。一対一ではプリシラ相手に絶対に勝てない。もっと小さい頃のお茶会で他の令嬢の髪を引っ張ったこともあったらしい。プリシラ凄すぎる。口も達者で喚くし暴力もあり。だからグループで来たんだよね、うん分かる。


 でも、このエビ食べてからにしていい? エビを慌てず噛んで食べてからごっくんする。プリシラは機嫌が悪いと平気で無視することもあったから大丈夫なはず。幽霊になってからは私しか話す相手がいないから無視はされなかった。それも嬉しかった。孤児院とは違って。


「聞いてるの?」

「無視するなんて何様のつもり?」


 喋ってるのは主に二人か。

 あとの二人は連れてこられただけなのかな。こうやって絡んでくるってことはグレンのことがよほど好きなのね。

 プリシラの誕生日パーティーでは一人でいても絡まれなかったけど。彼女たちを呼んでなかったのかな。ドレスから見てお金持ちっぽいもんね。


「ちょっと! お姉さまに何してるの! この……ぶ、不細工!」


 ん? 不細工だって? プリシラ?

 私の前に勇ましく割って入って来た人物を見て目が点になる。


 ブレアだった。グレンの親戚のブレアね。

 ちょっと待って。今つっかえながら不細工って言った? ブ、ブ、ブレアさん? それは普通の女の子は使っちゃいけません! ただし、プリシラは除く。人に紅茶をかけられる者のみが使えるやつだから!


「お姉さま! そのドレス、とっても素敵です!」

「あら、ありがとう」


 ブレアさん? くるりとこちらを向いてくれて可愛いけど、それ今言うことじゃないから!


「トンプソン伯爵令嬢。どういうつもりなの。あなただってエルンスト侯爵令嬢はグレン様にふさわしくないって言ってたじゃない」


 やっぱりそうだよね! 分かっちゃいけないけど分かる。プリシラがいないから盛大に頷いてしまいたい……でもさすがにここで安心してください、結婚した途端すぐ逃げるのでその後思う存分グレンを狙ってください、なんて言えない。


「今のお姉さまは変わったのでいいんです! 若いうちは失敗することもあるんですよ!」


 ブレア、良い子だなぁ。ただ、プリシラのあの行動が若気の至りで済むかどうかは……分からない。


「ブレア、あっちに桃のデザートがあるのよ。ブレアは好きでしょ。早くしないとなくなるわよ?」


 とりあえず食べ物で釣って、ブレアにはこの険悪な空気から退いていただこう。


「お姉さまも行きましょう」

「この方々とお話があるのよ」

「お姉さまよりも可愛くないのですから、グレンお兄さまとは釣り合いません!」


 ブレアさん、それは言っちゃダメなやつ。


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