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いつもお読みいただきありがとうございます!

21時にも更新します。

「あなたはどんな色が好きかしら」


 プリシラの好きな色はピンクや淡いイエローといったパステルカラーだ。

 ドレスを仕立てる際にそういった色を選ぼうとして、先代公爵夫人に止められる。


「あなたは本当にその色が好きなの?」


 好きな色? そんなの知らない。聞かれたこともない。でも、プリシラの好きな色は知っている。


「たまには他の色も試してみたら? ほら、この辺りなんてグレンの目の色だわ」


 あぁ、そういうことか。誕生日パーティーだから仲良しアピールなのね。グレンが他の令嬢に言い寄られたくないのかな。


 先代公爵夫人に誘導されて、青い見本の布を手に取る。

 ドレスのオーダーなんて、この前プリシラがノリノリでやっていたのをぼんやり見ていただけだ。


 ただ、あの時の倍以上のものが目の前にはある。色見本の布というものが。


「あら、こちらはあなたの目の色ね」

「そちらはエメラルドグリーンです」


 上品な雰囲気の女性の仕立て屋が口を挟む。

 青や緑っていってもいっぱいいろんな色があるのね。目がうろうろする。いっぱいあるのって嬉しいものだと思ってた。でもいっぱいありすぎて、ふらふらする。

 ドレスってアクセサリーより換金しづらそうだしなぁ。かさばるから持って逃げにくいし。


「この色で」


 たくさんありすぎて決まらず、目の前の色を適当に選ぶ。

 チラリと先代公爵夫人の表情を伺うと、笑って選んだ布を戻されてしまった。ダメだったようだ。


「私の顔色を見るのではなく、自分で好きな色を選びなさい」

「たくさんありすぎて……」


 なぜか部屋の隅にいる侍女が応援するように握りこぶしを作っている。選ぶなんて贅沢なことをしたことがないから、勝手に選んでくれればいいのに。


 選ぶ側と選ばれる側には大きな隔たりがある。

 私はいつも選ばれる側の中の絶対に選ばれない子。冷静を装って視線を下げて、内心では選ばれるかもしれないとドキドキしながらいつも蔑まれて落胆する。

 誰にも選んでもらえない。選んでもらえない苦しさも辛さもよく知ってる。そんな私が選ぶなんてできるわけがない。


 これまではどんなに趣味が悪くてもプリシラのものを身につけておけば良かった。ペラペラでゴワゴワのうすっぺらい服よりも数段マシだった。

 でも、今はプリシラの好きそうな色はすべて遠くによけられていて……選んでくれるなという雰囲気だ。


「じゃあ、この系統とこっちの系統はどちらが好き?」


 赤と青の色の山を指差される。

 青を指差すと、今度は青と白の山を指差される。

 そんなことを繰り返して青と緑の山が残った。先代公爵夫人は楽しそうに目を細める。


「どちらが好きかしら」


 分からない。

 青を選んだ方がグレンの目の色だからいいのだろうか。でも、そんな急に違う色を着ていたら別人疑惑が出ないだろうか。

 それでも、グレンにはもう少しまともなドレスと言われたし……。お金もフォルセット公爵家が出してくれるようだ。


「これとこれ、どちらも作って頂戴」

「かしこまりました」


 決められずに固まっていたら、先代公爵夫人はさっさと仕立て屋に指示を出してしまった。グレンとプリシラ、それぞれの目の色に近い色を引き抜いてから。


「エビとチョコレート以外で好きなものを見つけていかなければね。一着はグレンから、もう一着は私からの贈り物だからパーティーでは好きな方を着なさい」


 どうやら夫人に虐待されて、あんなドレスを強要されていたと思われているようだ。


「そんな、二着もいらないのではないでしょうか」

「あら、いるわよ。フォルセット公爵家は社交が多いのよ。公爵夫人の勉強もあるから張り切っていかないとね」


 先代公爵夫人の目には以前よりも温かな色がある。

 私はその目を見ていられずに俯いた。


 この人たちは可哀想なプリシラを勝手にイメージして作り上げているだけ。私、侯爵夫人の暴力は否定してるのに。背中の跡を見て心配してくれたのは優しいけど……。


 私は可哀想なんかじゃない。だって、ここから逃げてちゃんと自由になるんだから。もう大人の誰にも支配されない。

 プリシラは全然帰ってこないけど、使用人の目が多いここでお金をどうやって貯めたらいいのか分からないけれど、それでも自由になるんだから。


「病み上がりで無理をさせてしまったかしら。部屋に戻りましょう。デザインの確認は明日でいいわ」


 私は、こんな風にドレスを二着も買ってもらっていい人間じゃない。そもそもドレスなんて貴族以外に誰が着るの。


「あの……足もそろそろ治るので、エルンスト侯爵家に帰していただけませんか? こんなにお世話になっても」

「うーん、そうねぇ。でもプリシラ嬢の公爵夫人としてのお勉強を急いで進めていかないといけないのよ。これまでサボっていたから。私はこの足では侯爵家まで行くのは一苦労だし、ね?」


 先代公爵夫人の姿勢が良すぎて、足が悪いことを忘れていた。


「……はい」


 ここから逃げることをやっぱり真剣に考えないとダメみたい。

 ううん、大丈夫。当初の予定通り、結婚してすぐ逃げるのは変わらないじゃない。とにかく、侯爵から探されないようにしないといけない。馬車の事故とか偽装してみようか、大変そうだけど公爵家で読んだ本に出てきたもんね。


 でも、そうなると口の堅い協力者も必要だし……侍女長サリーは協力してくれるだろうか。外部に頼むとなるとお金もいるよね……。

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