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どうしてクモを取ってあげただけでこんなに懐かれるのか。そんなにグレンって頼りないの?
『あんた、ガキにだけは好かれるわよね。変な匂いでも振りまいてるんじゃない?』
「お姉さま、さぁ行きましょう」
「あ、うん」
「……」
一応変な匂いがしないかクンクン嗅いでみた。大丈夫そうだ。
それよりも……ねぇ、なんでグレンまでついてくるの? ブレア・トンプソンからお誘いの手紙が来たのになぜグレンまで。
「お姉さまに現実を見ろと言われたので、評判の占い師を予約しました!」
『占いなんて詐欺よ、詐欺』
プリシラに同意。ねぇ、なんで現実見るのに占い師なの? それって現実じゃなくない? 幻?
「お姉さまの分も予約を取ったので! 一緒に行きましょう。占いに行かれたことはありますか?」
「ないわね」
「わぁ、じゃあ初めてですね!」
さっきから一言も発しないグレンはなんでついてきたの? 私がブレアに危害を加えるとでも思ってるの?
でも、キラキラした目のブレアの手前言えない。私は年下の子にはどうしても甘くなるし、世話を焼いてしまうのだ、体が勝手に。
『ねぇ、何なのこの女。ブスね』
プリシラはぷかぷか浮きながらブレアにしこたま文句を言っている。
『服の趣味も悪いし可愛くないし。私と一緒に出かけようなんて百年早いわよ。隣に並んじゃって恥ずかしくないわけ?』
いや、それはプリシラの趣味が悪いだけ……ブレアもブレアのワンピースも可愛いよ。私もああいうシンプルで品の良いのが……これ言ったら怒られるやつ。
文句をぶぅぶぅ言っていたが、気になることがあったようでプリシラが消えて私はホッとした。
ブレアの予約した評判の占い師はイベント会場になっている広場の端のテントの中にいた。
「私が先に受けてくるので! グレンおにい様と一緒に待っていてくださいね!」
グレンって待ち時間の話し相手要員なのかな。
彼女の家、トンプソン伯爵家もかなりのお金持ちらしい。侯爵はトンプソン伯爵家から手紙が来たらチェックしてこれまた上機嫌になっていた。もちろん、夫人は荒れた。「プリシラに友達はいないはずなのに!」って。地味に落ち込むよね。
全然痛くないんだけど、プリシラが母親のあの姿を見てショックを受けているのが可哀想だ。心配したら『叩かれてたくせにお姉さんぶってんじゃないわよ』って怒られた。
思い出してげんなりする。そして、忘れていたがグレンは立っていると目立つ。お貴族様だからね。注目を浴びている気がする。
「これを」
グレンが折りたたまれた折り紙を差し出してきた。
「なに、それ」
「あの子供からの手紙」
慌てて開くと、花の絵がいっぱいに描かれていた。白い花もだ。
「これって孤児院の……あの子?」
イラクサを触って欲しくなくてうっかり叩いてしまった、あの子のことだろうか。
「そう。院長が根気よくあの子に説明してくれた。理解したようで手紙をもらった。文字はまだ書けないらしいから絵で表現しているそうだ」
「傷ついてない?」
「大丈夫だろう。ずっとお前が来ないか待っている様子があると聞いている」
「良かった。これもらってもいい?」
「そもそもお前宛だろ」
もらった折り紙を大事にポケットにしまい込む。顔を上げると、グレンはなぜか全く違う方向を向いていた。そんなに嫌なら直接渡さずに手紙に同封すればいいのに。今日はブレアに頼まれたから一緒に来たんだろうけど。
「お姉さま!」
数十分してテントからブレアが走って出てきた。ここはグレンに走り寄るべきではないのか。
「私の運命の人は年下ですって! 来年いい出会いがあると!」
この子、本当に大丈夫だろうか。占いを信じちゃうなんて。しかも年下って……ダメじゃない。グレンはあなたより年上なんだから。
「あんまり選択肢を狭めるのは良くないんじゃない? 占いって信じたら早く叶うこともあるし」
「あ、そうですね! さすがお姉さまです!」
いや、この子……本当に大丈夫? 夢見がちじゃない? グレン、親戚なんだからちゃんと見ててよ。
「じゃあじゃあ、お姉さまも占ってもらってください!」
「別に私は占いなんて信じてないから」
「せっかく予約したんですから!」
占いって予約できるんだ? 料金っていくら? 怖いんだけど。
ブレアに押されて、テントの中に足を踏み入れる。まだプリシラは戻ってこない。最近はプリシラがよく一緒にいたから一人きりって久しぶりだ。今、自分は一人きりなのだと認識すると急に怖くなる。
最近は全然寂しくなかった。一人で頑張っているという感覚がなかった。だって、感情が豊かすぎるプリシラとよく一緒にいたから。癇癪も起こすけど幽霊だから物を投げられないし、叩かれもしない。
暗めのテントの中。テーブルの上には大きな水晶。とても怪しい。
上からはキラキラしたガラス玉がたくさん吊り下げられていて、プリシラがちょっと好きそうだ。
「そこにお座り」
ベールをかぶっている女性が自分の前のイスを指し示す。顔は見えないが、手は皺だらけだ。老女なのだろうか。
「さて、お嬢さんを見てみようかね」
私が一言も発していないのに、老女は水晶に手をかざす。怪しい。
しばらく老女は手をかざしていたが、首をひねった。
「おかしいね。あんた。何も見えないよ」
こうやって何か情報引き出そうとしてるんじゃない?
「そうですか。困ったこともないので」
「いいや、違うね。白いモヤモヤで何にも見えないんだよ。あんた、自分を偽ってるだろう。こういうのは嘘をついている人間に多いんだよ」
ドキリとした。まさか占いでもそんなことを言われるなんて。
「女の子が気にするのは大体、運命の人だけど……あんたはモヤモヤで見えないね。自分を偽ってたら運命の人は現れないんだよ」
これはちょっとショックかも。運命の人なんて期待してなかったけど、やっぱりショック。
「……そうですか」
「ん、ちょっと待ちな。3という数字に心当たりは?」
「……あります」
「3がちらちら見えるね……これが鍵なのかねぇ」
老女はうんうん唸っているが、それは私の名前だ。
そんな調子でちょいちょい掠ったことは言われるのだが、肝心なことは何もなく占いは終わった。
「自分を偽ってたら運命は来ないんだよ、お嬢さん」
「はい……」
いや、どうしろと。十六歳になって逃げてまた来いってこと?
「偽るのをやめたら運命から近付いてくるさ。そうさね、一ついいことを教えてあげよう」
「はい」
「このテントには出入口が二つあるんだ。そっちの出口から出るんだよ。そうしたら運命に近付く」
「?? 偽っていたらダメなのでは?」
「自分を偽らなくてもいい出来事が起きるかもしれないってことさ。お嬢さん次第だよ」
「はぁ」
やっぱり占いってあてにならないじゃない。
あんたはニセモノの令嬢で、逃げるつもりなんだろうってハキハキ言われたら信じたけど。それはそれで怖いか。
さて、プリシラどこ行ったんだろ。この後は街歩きして解散だろうしなぁ。
占い師に言われた出口から何となく出ると、入り口とは反対側だった。賑やかな声が反対側から聞こえる。裏口だったようで、荷物がごちゃごちゃ置いてある。
大回りして入り口の方向に向かおうとすると背後に誰かの気配がした。
プリシラ?
そう思って振り返ると違った。黒い男がいた。いや、覆面か。
反射で逃げ出そうとしたが、強い力で引き寄せられ口を塞がれた。
ちょっと! あの占い師、詐欺じゃない! いや、犯罪!
プリシラはどこ!?
渾身の力でジタバタしたにも関わらず、軽々と持ち上げられて猿轡をされて袋に入れられてどこかへ連れていかれた。
ちょっと! プリシラ! どこにいるの! 返事してよ!