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深夜、細身の女が新しくできた孤児院の前に何かを置いた。フードを被っているので女がどんな表情かは分からない。
置いた拍子に布の位置が変わり、赤ん坊の顔が晒される。赤ん坊はすやすやと平和に眠っていた。そんな赤ん坊の顔をじっと眺める女。
バンッとあたりに響き渡る音がした。女は慌てて踵を返す。
「おい! 何赤ん坊を捨ててやがる!」
大きな音を立てて扉を開け、新しい孤児院から出てきたのは太った男性職員だった。片手にはタバコ。孤児たちが寝入って一服していたのだろうか。
「勝手なことをするな!」
「うるっさいわね!」
深夜なのにフードの女も振り向きざまに声を張り上げる。振り向いた拍子に綺麗な銀髪がはらりと一房フードから出てきた。この辺りで銀髪は大変珍しい。
「ここは孤児院だろうが! 望んでない赤ん坊を捨てたっていいだろ! 商売の邪魔なんだよ!」
叫ぶだけ叫んで女はフードをまたしっかり被ると足早に去っていった。
職員は途中まで女を追いかけたが、片手のタバコはまだ吸い始めたばかりで投げ捨てるのはもったいない。それに太っていて息が上がりそれほど速さも出せない。二つの理由により早々に追うのを諦めた。
ハァハァと息を乱し、とぼとぼと職員は孤児院の入り口に戻って赤ん坊を眺める。
「さっきの女。銀髪だった。てことはこの辺で有名な娼婦じゃねぇか。お前は娼婦の娘かよ、災難だな。生きづれーぞ」
ブツブツ言いながらタバコを吸い終わり、赤ん坊と包まれた布を確認する。赤ん坊の前でも平気でタバコを吸うタイプの人間のようだ。
「ちっ。名前も何にも書いてねぇな。しかも生まれたばっかりの女かよ」
男の決して小さくはない声にも赤ん坊は目を覚まさない。男はため息をついた。
「ったく。お前はこの孤児院で3番目のガキだな」
新しい孤児院にはまだ二人しか子供がいなかった。
「あの娼婦に似たら別嬪になるかもしれねーけど。まぁ、頑張って生き延びろよ」
仕方なさそうに男は赤ん坊を慎重に抱いて孤児院の中に戻っていく。
これは生まれたばかりで母に捨てられ父も分からず、名前もつけられなかった孤児「3番」の物語。