12月24日(4)
やっと見つけたと思ったのに、涼ちゃんは私がいる方とは逆方向へと走っていく。
絶対私のこと見えていたし、声も届いていた。それでも私を無視する、避ける。
「ま、待って!!」
私は涼ちゃんの背中を追いかけた。
もうすでにここに来るまで走っていたし、息が上がっているのにさらに追い打ちをかけるようにして足を動かしていく。
周りのカップル達の視線が痛いが今はそんなことよりも涼ちゃんが優先だ。
「涼ちゃん!!待って!!」
走りながら涼ちゃんの背中に向かって叫ぶ。
私たちの距離は近づくことなくどんどん離れていく。人を避けながら見失わないように追いかけるけど、涼ちゃんはバスケ部で帰宅部の私の足では追いつくは無理だ。
仲良く手を繋いでいたカップルにぶつかった。
「ご、ごめんなさい」
カップルに向かって頭を下げて、涼ちゃんの方を振り返った時にはもうその姿は見えなくなっていた。
気がつけば吹き抜けのホールに辿り着いていて、中央にはたくさんの装飾をつけた大きなツリーが立っていた。
はぁはぁと息を整えつつツリーに近づく、今日はクリスマスイブで世の中は家族や大切な人と過ごしたりする。私は友達に避けられて逃げられて、気持ちを伝えたくても伝えられない。
「嫌われちゃったかなぁ……」
ズズっと鼻を啜った。ツリーを見上げる。2階まで到達してるくらいの大きさでてっぺんには大きな星が飾られている。手を伸ばしても当然届くことのないただ一つだけの星を私は見上げて遠くから見ていることしかできない。
歪む視界が煩わしい。
星を見ていることすらできないのか、手を伸ばしても届かないのであればせめて見ていたいだけなのにそれも許されないのか、私の言葉が届くことはなくても、聞くこともできないのか。
私は何もできないのか
誰も私の視界を邪魔する水滴を止めてくれる人はいない。
ブーブーとポケットに入れている携帯が震える。袖で軽く涙を拭いて携帯を取り出して通話ボタンを押した。
『凪沙?悠木涼は見つかったか?』
「いたけど、逃げられちゃった」
『は?逃げた!?』
「もう見つからないかも……私がいることバレちゃったし」
『凪沙今どこにいるの?』
「要ちゃんが教えてくれたホテルのある建物の広場かな?大きなツリーがある」
大きなツリーを見上げる。大きな星がキラッと輝いている。
『わかった今から行くからちょっと待ってて』
電話が切られた。ちさきちゃんはもう近くに来ているということだろうか。
近くに会ったベンチに座る。周りはカップルだらけでハートマークが飛び交っていそうな雰囲気だ。
しばらくすると足音が近づいてきた。見上げればちさきちゃんが息を切らして立ってる。
「よし。行こう凪沙」
「え?どこに?」
ちさきちゃんが私の手を引っ張り立たせる。
「とにかく探し回らないとだろ?ここのホテルに泊まることはわかってるんだから遠くには行かないさ」
「そ、そうかもだけど、ここ広いよ?」
「最悪部屋に乗り込むだけだから大丈夫だって」
「え?部屋に乗り込む?」
「ここ龍皇子家が経営もしてるらしいぞ?」
「…………」
どうやら涼ちゃんの逃げ場はないみたいだった。
ちさきちゃんに手を引かれながら色んなお店を見て回る。
「うわっなんだこれ!?」
髑髏の顔をしたムニムニした物体を握ったちさきちゃんは、目玉が飛び出た髑髏を見せてくる。
「ほら、握ったら目玉飛び出すんだけど!はははっ」
握っては離し握っては離しを繰り返して楽しんでいる。
「えっと――ちさきちゃん?涼ちゃんを探すんじゃなかったの?」
「んーー?でも、せっかくのクリスマスイブだし?凪沙と楽しみたいじゃん?暗い顔してさ必死に探すより楽しもうよ。飛行機は明日だし、最悪部屋まで行けば確実に悠木涼に会えるわけだし」
そう言ってちさきちゃんは隣に置いてあるカエルみたいなムニムニした物体を触っている。舌が飛び出した。よく出来ている……
一刻も早く涼ちゃんに会いたかったけれど、この後に絶対に会えるという保証があるだけで心に少しゆとりが生まれた気がする。
「ありがとう!ちさきちゃん!デート楽しもうね!」
ちさきちゃんの手をぎゅっと握った。
「で!?でーと!?」
ちさきちゃんが顔を赤くした。
涼ちゃんを探すという目的も遂行しながら、お店のを見ていく。買えないけれど、ブランド物を取り扱っているお店にも入った。
ゲームセンターではホッケーゲームをして、プリクラを撮って、クレーンゲームもした。
景品に私が使っているスタンプの犬がいて迷わずトライする。
チビぬいといやつで頭からチェーンが伸びていた。
「取れない……」
「凪沙下手なのか!?」
「わからない……やったことないから」
「初心者じゃん!!こういうのは少しずつ穴に近づけるんだよ」
「あっ!」
「後ちょっとで落ちるぞヤレ!!」
ポトっと落ちた犬のチビぬいは手のひらサイズ。それでも初めてクレーンゲームで取れた景品は嬉しくてぎゅっと握った。
「凪沙に似てるよな………その犬」
「えー私犬っぽい?」
「犬っぽい」
ちさきちゃんは笑いながら頭を撫で回してくる。
頭をボサボサにさせられて、ひとしきり笑ってゲームセンターを後にする。
楽しい時間を過ごしてる。ちさきちゃんは私を楽しませようとしている。
知ってるよ。ずっと携帯を気にしてること。誰かからの連絡を待ってるってこと。
読んでいただきありがとうございます。
カクヨム、アルファポリスで投稿している、ちさきと亜紀のサイドストーリー
【どさくさに紛れて触ってくる百合】もよろしくお願いします。