11月15日(3)
「よし!私の話は終わり!次は涼ちゃんね!」
涼ちゃんの方に振り向くと、優しく頭を撫でてくれていた手がピタリと止まった。
「私の話するの?」
「だって気になるし!今まで好きになった人は?恋人はいたことある?」
「えぇぇ………」
ちさきちゃんとはほとんど恋バナしたことなかったけど、涼ちゃんの恋バナは気になる……まず、ちさきちゃんは恋人を作る気配もないからちさきちゃん自身の恋バナが全くない。見た目ギャルで派手なのに内面はめちゃくちゃ純粋で良い子ってどこかの漫画いそうな主人公かよ。
「私の話も特に面白いことないよ?」
「うん。いいよいいよ」
「えっと――恋人はいたことあるよ」
「やっぱりあるんだ!?」
「中学の時にね。ちょっとお付き合いしてた人はいた……すぐ別れちゃったんだけど……」
「どうして?」
涼ちゃんはぽつりぽつりと話し始めた。
「成り行きで付き合ったっていうか……ちょっと強引な子で……私も別に嫌いじゃなかったし、友達としてはすごく仲が良かったんだけど、恋人としてお付き合いするのはちょっと違うかなって……」
少し寂しそうに涼ちゃんは続けた。
「別れた後は結局友達には戻れなくて……だから、次は本気で好きになった相手とだけ付き合おうって」
ちょっと重いよね。と言って涼ちゃんは苦笑した。
――本気で好きになった相手
その相手は私でいいんだろうか?
今涼ちゃんは私を恋に落とそうとしている。
私は涼ちゃんを恋に落とそうとしている。
いつ落とせるかわからない恋の落とし合いは、もしかしたら全然別の相手を好きになった時終わりを迎えるかもしれない。
涼ちゃんは私を本気で好きになりたいんだろうか。本気で好きになれるんだろうか。
私は涼ちゃんに恋愛的な好きを向けることができるんだろうか。
私は涼ちゃんのことが好き。
美味しそうにお弁当を食べてくれるところが好き。
楽しそうに笑ってくれるところが好き。
球技大会で真剣に試合をしている涼ちゃんが好き。
優しく頭を撫でてくれるその手が好き。
でも、そこには恋愛的な好きは含まれていない。
それでも、涼ちゃんは私の事を本気で好きになりたいの?
お互いが好きにならないと恋人同士にはならないのに……
「ほら、特に面白い話じゃなかったでしょ?」
「うん。きっとその彼も涼ちゃんの事が本気で好きで強引でも付き合いたいって思ったんだろうね。でも、お互いが本気で好きじゃないと気持ちのズレがあって結局は別れちゃう事になっちゃったけど……」
「そうだね………………ん??」
「どうしたの?」
「彼女だけど?」
「え?」
「元カノの話だけど?言ってなかった?」
「えぇぇぇ!!!!涼ちゃん女の子と付き合ってたの!?!?」
持っていたフラペチーノのカップが倒れかけた。危なっ!!
「う、うん。女の子に告白されて付き合ってた」
「前に女の子から告白されることもあるって言ってたけど、女の子と付き合ってたなんて初めて聞いた」
「まぁ、言いふらすような話でもないからね」
涼ちゃんはカフェラテを一口飲んで口の端で笑った。
「え?ごめん。言いにくかったらいいんだけど………涼ちゃんって女の子が好きなの?」
「…………んーーー。あーーーーー。んーーーー。……そうなのかなぁ?」
顎に手を当てて考え込んでいる。
私たちはまだ高校生で10数年しか生きてこなかったし、自分のことでもわからないことの方が多い。
自分は女だから男を好きになると勝手に決めつけて、でも考えてみたら恋愛的に好きだったわけじゃないのかもと気づいて、友情的な好きと恋愛的な好きの違いがわからないでいる。
みんなはその違いがわかるのか、どうしたらその違いに気づけるのか……
私は知りたかった。
カップをゴミ箱にぽいと捨てて店を出た。
映画後のカフェは映画の感想なんて一切せず、いや、映画の話はできないでしょ。最後のエッチシーンでそれまでの工程が全て上書きされちゃったので!
結局恋バナの後は学校の他愛のない話や涼ちゃんの部活について色々聞いた。
涼ちゃんと結ちゃんは今レギュラー入りしていて今度の練習試合は2人ともでるらしい。
涼ちゃんと手を繋いでショッピングモールの出口に向かって歩く。
「練習試合見にきてよ。凪沙が見に来てくれると頑張れるから」
「行く!涼ちゃんの活躍楽しみにしてるね」
涼ちゃんの手をぎゅっと握った。
「ねぇ、涼ちゃんの手って大きいよね?バスケやってるから?」
「え?どうだろ?でも、凪沙の手はちっちゃいよね。可愛い」
「ちっちゃいかなぁ?」
涼ちゃんの手と私の手を合わせると関節一つ分の差があった。男の子とは違って柔らかくて細くて長い指は私にとっては魅力的な指をしている。
「でも、涼ちゃんに頭撫でられるの結構好きなんだよねぇ。涼ちゃんによく撫でられてる気がする」
「………凪沙の髪が柔らかくて気持ちいいからかな?」
クスッと笑ってまた私の頭を優しく撫でてきた。
「いっぱい撫でてあげるね?好きなんでしょ?」
「わぁーー!!ボッサになる!撫で方雑になってる!」
2人で笑いながらショッピングモールを出て駅に向かった。
柱の影から誰かが見ている。
2人に鋭い視線を向けている。
「悠木涼……」
小さく呟かれた言葉はショッピングモールの雑踏に消えていく。
読んでいただきありがとうございます。
カクヨム、アルファポリスで投稿している、ちさきと亜紀のサイドストーリー
【どさくさに紛れて触ってくる百合】もよろしくお願いします。