10月27日(12)
無駄に長い閉会式を終えて、特に優勝したクラスを表彰されるような事はなく結果だけが貼り出されて今年の球技大会は終わった。
お昼休みぶりに1階の特別教室が並ぶ1番奥の教室に私たちは来ていた。
「優勝おめでとう涼ちゃん」
「ありがとう」
カーテンを少し開けて夕陽が差し込む窓辺に寄りかかりながら隣に並ぶ涼ちゃんを見上げる。
球技大会だった今日は部活動も休みらしく、放課後涼ちゃんに呼び出されていた。
「病院行くんだったよね?ごめんね?呼び出して」
「大丈夫だよ。急がなくても病院は逃げないから」
笑いながら左手を振った。テーピングされた指はまだ腫れてはいるけど、痛みは幾分かマシになってる。
「涼ちゃん。ありがとう」
「ん?」
「無駄じゃないって言ってくれて嬉しかった。頑張ってる涼ちゃんをみて嬉しかった。頑張った成果を見れて嬉しかった。がんばってる涼ちゃんはすごく……かっこよかったよ」
私よりずっと身長が高い涼ちゃんを見上げる。
私が特別身長が低いわけではないし、涼ちゃんもバスケ部の中では大きい方ではない。それでも私たちの身長差は10センチ以上はありそうだった。
涼ちゃんは窓際に両腕を乗せて私の顔を嬉しそうに下から覗き込んでくる。
「好きになった?」
「え?」
「私の事、好きになった?」
思わず聞き返してしまった私にさらに涼ちゃんは問いかけてくる。
好きになったかという問いかけは、恋愛的な意味で私が涼ちゃんの事を好きになったのかという質問なのだろう。
「私は……涼ちゃんの事が好きだよ?」
「………」
涼ちゃんはジッと私を見つめてくる。私も涼ちゃんの瞳を見つめる。
どっちの意味で?と目で問いかけてくる。
「でも、恋愛的な意味でかと聞かれたら……違う…かな」
「………そっか」
何故か涼ちゃんは少し寂しそうに呟いた。
窓の外を見つめている。ここは一階で特に景色が良いとかそういうのはない。ちらほらと立っている木々ともっと奥には学校を囲っているフェンスが見えて、フェンスの向こうには下校中の生徒達が歩いてるくらい。
10月の下旬の夕方は随分と肌寒くなってきていた。
「なぎさは――」
「……何?」
窓の外を見つめていた涼ちゃんの視線が私に戻ってくる。窓際に寄りかかったままの涼ちゃんは私を下から見上げてきた。
「凪沙は――私の事、恋愛対象としてみてる?」
「…………」
私は何も言えなかった。
今までの私は男の子を恋愛対象としてみていた。多分、そういうものだと思い込んでいた。
だから涼ちゃんを女の子を恋愛として好きになることはないと決めつけていた。
そっか、私涼ちゃんを恋愛対象としてみていなかったのか。
でも恋愛対象としてみるってどうしたらいいんだろう……
今まで付き合ってきた男の子達はどうだっただろう……
友達としてずっと仲良くて、そしたら向こうから告白してきて好きだったから付き合った。
――その好きって“恋愛“としての好き?
私はわからなくなった。
恋愛としての好きってなんなんだろう。
今まで付き合ってきた男の子と今目の前にいる女の子。
向けている好きは同じなんじゃないだろうか……
相手が男の子だったから付き合っただけなんじゃないのか……
もし今目の前にいるのが男の子で告白されていたら付き合っていたんじゃないのか……
人を恋愛的に好きになるってどういう事なんだろう……
「ごめん。困らせちゃったね」
「ごめん……」
「ふふ。すぐに凪沙のこと落とせるなんて思ってないから」
涼ちゃんは体をグッと伸ばした。
私の視線は上に上がる。
「それに今度のデートすっごい気合い入っちゃうなぁ!」
「あ、デート!!」
「してくれるんだよね?」
「うん!約束だからね!」
ひとまず指の怪我がちゃんと治ってから行こうねと約束をして2人で特別教室を出た。
「そういえば涼ちゃんは私の事好きになった?」
「……うん。凪沙のことは好きだよ。――友達としてね」
「なんだぁ〜涼ちゃんもまだ私に落とされてないんだぁ〜。でも、私涼ちゃんにお弁当を作ってくるくらいしかしてないから好きになる要素ないよね?それに今日はいっぱいダメなところ見せちゃったし……」
「胃袋を掴むのはすっごく大事だと思うよ?それに涙は女の武器ともいうし」
2人で昇降口に向かって歩いている。今日は部活動がお休みだから特別教室が並ぶここの廊下はあまり人がいなかった。
「でも、涼ちゃんの胃袋はまだ掴めてないわけだし……」
「私は胃袋だけじゃ落とせないからね」
意地悪そうな表情をしながら涼ちゃんは笑った。
女の武器も女の子相手には通用しないのかもしれない。
「私も涼ちゃんとのお出かけ気合い入れようかなぁ」
お出かけ用の服は持っているけれど、新しく新調してもいいかもしれない。
秋物の服をちゃんと用意しておこう。
「楽しみにしてるね」
「あ、どこ行くか決めてるの?」
「優勝できるかどうかわからなかったから全然考えてなかった」
それじゃあ―――と私はカバンの中を漁った。
白い封筒を取り出して涼ちゃんに向けて見せた。
「?何これ?」
「映画のチケット。美月さんに貰ったんだけどまだ行く人がいなくて良かったら一緒に見ない?」
「いいの?」
「折角だから涼ちゃんと行きたいかなぁ〜」
「行きます!」
涼ちゃんは背負ってたリュックの肩紐をギュッと握って頷いた。
※読んでいただきありがとうございます。
ひとまず球技大会編は終わりました!
まだお話は続くのですが、私はとても遅筆なので毎日投稿ができなくなって来ると思います。
なのでフォローなどしていただいてお待ちくださると嬉しいです。
カクヨム、アルファポリスで投稿している、ちさきと亜紀のサイドストーリー
【どさくさに紛れて触ってくる百合】もよろしくお願いします。