五話 崖のリング
大円盤へ近づくにつれ、つまり前へ進むにつれて少しずつ見えてきたのは高い崖だ。
大地にナイフを入れて掬い上げたかのように切り立った岩の崖が立ちふさがっている。
遠くから見ても登るのが無理だとわかる高さだった。
「迂回すんのかな」
だが左右どちらを見ても万里の長城のように崖はどこまでも続いていた。
「とりあえず近づいてみるか」
崖へと歩いて行くと、地面は枯れ草原から草もほとんど生えない岩場へと変わっていく。
モンスターも種類が変わって、丸い小さな岩が手足を生やして歩いたりしていた。
「あれ剣で倒せるのか? ああ、大円盤が見えなくなっていく」
傍へ寄っていくと空すら塞がれていく。
そうして崖に触れる程近寄ると崖の一部がぱっくり割れているのがわかった。一部と言ってもかなりの幅だ。数人が横一列になっても余裕がある。
道は坂になってかなり奥まで続いているようだ。
「ここから入るのか……?」
辺りをそっと確認してふと気づいた。
「モンスターがいない」
道の周りにもこの先にもモンスターの姿が見えない。
どこにでもいたはずなのに。
「……一応ノース展開しとこ」
何かが起こる予感がして俺はカバンからノースを引っ張り出した。
ノースを前に行かせ、俺はノースに隠れるように崖の道を進む。やはりモンスターは一匹もいなかった。
坂道を登っていくとやがて広く開けた場所に出る。
「うわ、なんだこれ。リング?」
そこは両脇の崖が削れて広くなった場所のようだった。
歪ながら丸い広場は円形の闘技場みたいな形になっている。
「他のモンスターはいない、広い闘技場、次のステージに行く途中……なるほど」
あまりに整えられた状況へ笑ってしまうと同時に、冷汗を掻く。
いやいやマジか。マジで? ノース今ボロボロなんだけど。
――ゴォォン。
「うわっ」
突如くぐもった激突音が響く。
崖中へ反響しながら広がる音は上から聞こえてきたようだ。
見上げると遥か高く、右側の崖の上で何か大きいものが二体戦っていた。
どちらも崖と同じ薄茶色のごつごつしたモンスターだ。
「巨人? いや」
崖際ギリギリで殴りあるそれらは作り物のように見えた。岩を積み上げて作った人形のように。
片方の巨岩が拳を振り上げ全力で殴りつける。
――ゴォォン。
同時に殴られた方の岩がぐらりとバランスを崩し――その足を踏み外した。
「うおおお⁉」
巨体が落ちてくる。咄嗟に道の中へ引き返しながら俺はそれを観察する。
崖にぶつかり転がりながら、その度少しずつその体を削られながら、それは最後に大きく体を跳ね飛ばされ。
崖中に響く程の轟音を上げ広場へと墜落した。
「おいおい……」
落ちてきたそれは痙攣しながらゆっくりとその巨体を起こした。
それはどうやらモンスターで、しかも今までのものとは比べ物にならないらしい。
頭上に表示されるその名は。
「〝崖落ち〟のゴーレム」
人型になるよう岩を適当にくっつけて作ったような歪な体だ。体も腕も至るところが削られ罅が入っている。
そして頭に当たる部分には真ん中に穴が開いていて真っ赤な光が輝いていた。
真っ赤な光はイラついた様にぎょろぎょろと赤い光を動かして。
やがて俺たちへぎゅるりと向けられた。
「……」
刺激しないよう息をひそめてみる。
が。
オオオオオオオオオオ‼
瞬間、ゴーレムは吼えた。
ビリビリと今までのモンスターの鳴き声とは比べ物にならない振動が俺の体を襲う。
そして敵意をむき出しにズン、とゴーレムが一歩を踏み出した。
慌てて道の中から広場へと飛び出し俺は叫んだ。
「ここでボス戦かよ!」
ノースの錆びた腕がぎしりと音を立てる。
これ前話に入れとけばよかった。