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十四話 ちょっと悔しい

「世界の発展、改善が目的……なんか壮大だ」


 いまいち想像ができず俺は首を捻る。

 俺の感想にクラウンは苦笑した。


「確かに大袈裟になるね。別に世界を変えたいわけではないんだ。言ってしまえば欲しいものを造り出したいんだよ。例えば回復薬が欲しいと言っていた子……ムシュフシュなんかは歩くのが面倒だから乗って移動できる人形を造るとか、操作が面倒だから自動で動く機能を造るとか」

「理にかなった要望のような、ただの愚痴のような」


 それを造れるとしてもだいぶ道のりは遠いんじゃないか。


「他の人たちもそんな感じ?」

「いや、各々違っていたね。私が言っていいものかわからないから伏せておくが」

「ムシュフシュさんのはいいのか……」

「言い触らしてもいいと言われているんだ。『発展させるのはわたしじゃなくていいですし』と」

「あけっぴろげだなぁ。……というか今更だけど発展とかって俺に話してもいいことなのか。かなり大事なことだと思えるんだけど」


 ふと不安になってくる。

 工房に招かれてからかなり色々聞いてるが、こういう情報って貴重なんじゃないのか。


「俺MMO疎いからわからないんだけど、情報料とか払うべき?」

「疎いのは私もさ。ただこれに関してはみんなで相談して広めてもいいということになったんだ。だから見返りは特に必要ないよ」


 クラウンはにこやかに手を振った。


「そもそもどうやって発展させるのかもわかっていないからね。多くのプレイヤーへ知らせた方が結果的に私達の手に入れる情報も多くなるだろうと、公爵やにゃーさんが」

「へえーなるほど。確かに発展って言葉そのものが曖昧だしな」

「まあ、ね」


 何故か意味深にクラウンは言葉を濁す。

 作業台の向かいから切れ長の目が俺を見据えていた。


「お、おお? 何?」

「……いや。サウス君は〝行商人〟を知ってるかい?」


 唐突に話題を変えられる。なんだなんだ。


「知らないな」

「長い金髪で整った容姿のNPCなんだ。珍しい素材を持っているけど特定の時間にしか姿を現さないから、見かけたら話しかけてみるといい」

「ふーん? わかった、ありがとう」


 クラウンはにこりと笑う。俺も笑顔で返してみる。

 なんかスパイみたいな気分だな。


「ふう、私が話せることはこれぐらいかな。長いこと引き留めてしまってすまない」

「いや色々情報貰えて滅茶苦茶助かった。ありがとう」


 ベッドへ腰かけるクラウンへ礼を言う。クラウンは照れたように頭を掻いた。

そういえば初めて会った時も助けられてたな。……あれ俺助けられっぱなしだな。


「クラウン、やっぱり情報料払う」

「え、いいよ」

「いや助け合いどころじゃないぐらい助けられてるしせめて代金は払いたい。ってか払わせて! 金はないけどモンスターの素材なら結構溜まってるから。確かパーツの製造に使ったよな」

「使うけど……いや、それなら」


 クラウンが思いついたというように人差し指を立てた。


「小盾でどうやってゴーレムを倒したのか教えて貰えないか?」

「ゴーレム? いいけどもうクラウンたち攻略してるだろ」

「私達のパーティには盾持ちがいなかったからね。どういう攻略をしてるのか気になって」

「別にそれぐらいなら普通に話すけど……」

「ソロで、しかも小盾のみでの攻略はちゃんと価値のある情報だろう? 多分」

「多分て」

「正直こういう交渉でどの程度が適正かわからないからね……。なにせお互い初心者同士だ」

「あー」


 確かに俺もどれぐらいの対価が適切なのかは知らんな。


「だから私が欲しいものを頂戴。……気になってたんだ、君がどうやってゴーレムを倒したか」


 ガタ、とクラウンが立ち上がった。作業台を回ってこちらへと近寄ってくる。

 俺も立ち上がる。目の高さはちょうど同じぐらいだ。


「私、これでも自分の操作は上手いと思っててね。でも一人でゴーレムを倒すのは無理だろうと考えてたんだ。ピエロのナイフは攻撃力が低いし削り切れないだろうと」


 真正面にあるクラウンの目が僅かに鋭くなっている気がした。


「でもサウス君は小盾で、一人で突破した。小盾って『黒曜石の小盾』だろう? 攻撃力なんて無いに等しいゴブリンからのドロップアイテム」

「そうだな」

「私が諦めたことを、他の誰かにされるのは――」


 クラウンが眉を寄せる。


「ちょっと悔しい」


 その目に宿っているのは対抗心だった。


「……なるほど。はは、なるほど」

「笑ってしまうだろうが、私には大事なことなんだ」

「ああいやごめん。面白いんじゃなくて嬉しいんだ」

「うん?」


 クラウンは首を傾げる。まあそっちは知らないことだもんな。

 でも俺はあの時をちゃんと覚えてる。

 クラウンの鮮やかとすら言える操作を覚えている。


「ゴブリンから助けてくれた時のこと覚えてるか? 俺はあの時のクラウン見てあんな風に操作したいと思ったんだよ」


 驚いた様にクラウンは目を開いた。


「それが今どうやってボス倒したのか教えて欲しいって言われてんだからなぁ。はっはっは。ちょっと嬉しくなるわ」

「……私は複雑な気分だね。追い抜かれるとは」


 むっとしたような顔のクラウンへ、俺はゴーレム戦を語るのだった。

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