十三話 アイアン・メイデック
『Dolls Revolution』のストーリーは侵略者を撃退して人類の居場所を取り返すこと。
そのためにプレイヤーは人形という武器を発展させていく。
だから発展するというのはわかるが。
「世界が発展する? 人形じゃなくて?」
PVで見たストーリーでは確か人形を発展させろと言っていたはずだ。いやただ言い方が違うだけかもしれないが。
俺の質問にクラウンは顔を上げた。
「いや、根本は人形だ。人形に関する何かを変えることで、世界にその影響が出てくる」
「どう変わるんだろ。国が増えたりすんのかな」
「具体的にはわからないね。けれど最初言われたように、私達プレイヤーは人形の新たな可能性を開拓して人々に普及させるというのが目的でもあるだろう?」
「……そんなこと言われたっけ」
「ああ、国王に謁見した時の話だね」
「へえー王に謁見とかあるんだ」
「え?」
「え?」
クラウンが顎に指を当てて首を傾げた。
なんで当然みたいに……あ。
「チュートリアルの前のストーリーであった、はずだけど」
あーーーーーーー。
「ごめんどっちも見てなくて……」
「えっ、ああ。そうなんだ」
「いや興味がなかったわけじゃないんだけど大円盤の方に気を取られすぎててスキップを」
何に対してしているのかわからない言い訳を並べ立てる。
ほんとマジで最初はちゃんと見とけばよかった……いやもはやスキップできるゲーム側に問題があるのでは?
「ま、まあまあ。プレイは人それぞれだから」
ゲームまで責め始めたところでクラウンがフォローを入れてくれた。
「じゃあ人形を発展させる目的なんかも知らないかな。説明しようか?」
「あ、いやPVは見たからその辺は一応理解してる。侵略者を撃退する、んだよな? 合ってる?」
「合ってるね。PVを見てるなら大丈夫かな。大筋は変わらないから」
「そ、そっか」
「んんっ、つまり侵略者を撃退するため私達プレイヤーは人形を発展させる。そしてその結果世界も変わっていく――かもしれない、ということだね」
クラウンは咳払いをして話を戻してくれる。
「かもしれない、なんだな」
「明言はされてないんだ。推測でしかない。ただ町の人々は私達プレイヤーに必ずと言っていいほど期待の言葉をかけてくる。その内容は大抵『新しい技術を開発してくれる』、『新たな可能性を造り出す』と……新しい、作るという言葉が含まれる」
「へえー。よく調べたなぁ」
「パーティの一人がやろうと言ったんだ。後話しかけるとアイテムの制作を頼まれることもある。だがそのアイテムは市場にもないし私達も持っていない。発展はともかく、私達が新しいアイテム等を造れる・造らなければいけないのはほぼ確実だ」
「なるほど……」
戦闘が基本かと思ってたら物作り系のゲームだったか。
というかモンスター倒さなきゃいけないならどっちもこなさないと駄目か。あれ? 大変じゃね?
「ああそうだ」
考えていると唐突にクラウンがぽんと手を叩いた。
「サウス君はチュートリアルをやってないんだよね」
「すみません」
「いや謝る必要はないけど……人形の修復はできるのかと思って」
「ああ、一応PVで見た。人形になんかでかい機械みたいなもの取りつけてぐるぐる回してたな」
「うん、大体合ってるね。じゃあ教えなくても大丈夫かな」
「教えてくれる気だったのか……いやでも想像と違うかもしれないからやってもらってもいいですか?」
これ以上チュートリアルでショックを受けるのは嫌だ。
情けない理由で頼むとクラウンは笑って「いいよ」と言ってくれた。
「まず作業台の下にあるこれを取るんだ」
そう言いながらクラウンは作業台の下に屈みこむ。そして鎖が付いた真っ黒な鉄の塊みたいなものを両手に抱えてゴン! と作業台に置いた。
「これがこのゲームの回復薬みたいなものだね」
「薬というにはごつすぎない?」
「名前はアイアン・メイデック」
「拷問器具みたいな名前」
クラウンは鉄の塊を二つに分けてピエロの脚を挟むように置いた。じゃらりと鎖が鳴る。
「これに脚を固定して」
鉄の塊には両方共に歯車が取り付けられていた。クラウンがそれを回すとギリギリとピエロの脚が固定されていく。
修復過程も拷問みてーだな。
「そして糸をつなぐ」
クラウンは作業台の下に指輪をつけた手を入れた。
かちりと音が鳴り指輪から糸が伸びて、それをアイアン・メイデックにも繋げる。
「これで準備は完了。後は歯車を回せば」
ギリと回せば歯車は勝手に回転し始めた。
ピエロの脚からガリガリ音が鳴る。どう聞いても削れている音だが、ピエロの傷は少しずつ消えていっている。
「こんな感じなのか……ちなみにこれって持ち運びはできない?」
「うん。アイアン・メイデックは作業台に鎖で繋がっているし、作業台と一緒じゃないと動かない。これだけ持って行っても仕方ないんだ」
「重さにしろ手順にしろ面倒だな」
「世界の発展を考えたのは、この面倒さが発展によって改善出来たらという思いもあるらしい。公爵……調べたいって言った人なんだけどね。彼が言ってたよ」
クラウンはピエロの脚に落としていた視線を上げる。
「そしてそれが今の私達の目的でもある」