表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/15

十一話 工房へ

 突然の出会いに俺は目を瞬かせる。

 クラウンも片足を浮かせて固まっていた。

 驚きは一瞬で、すぐに何か挨拶をしようとするが言葉が思いつかない。


「…………ど、どうも」


 たっぷり間を開けて絞り出せたのはそれだけだった。

 ただそれで固まっていた空気はほどけたようだ。クラウンが慌てたようにこちらを向いた。


「あ、ああ。こんにちは、サウス君」


 気を落ち着けるためかコートの襟を直しながらクラウンは挨拶を返してくる。


「ええと、サウス君はどうしてここに」

「ああいやここが俺の工房なんだ」

「……そうか。そうだね。工房から出てきたのなら、そうか。それにしても――」


 クラウンは眉を寄せて口元を隠し何か呟いている。

 聞き取れなかったが、まあただの独り言だろう。お互い混乱してるな。ようやく少し落ち着いてきたが。


「クラウンも工房に帰ってきた、のか?」

「ん、ああ。一応ピエロの修復と、あとパーツの製造に」

「へえー製造」


 そういえばそんなシステムもあったな。完全に忘れてた。


「でもパーツはともかくピエロの方はそんなに傷ついてなさそうだな」


 クラウンの横に立つピエロを観察する。

 相変わらずふざけたポーズだが目立った損傷は無いようだ。


「ほとんどは製造が目的さ。サウス君は工房で何を?」

「俺は死んで戻ってきただけだなぁ。リスポーンだ」

「おや、不運だね」

「運というか実力というか……情報不足かな。初見じゃ回避できない状態異常みたいなものにあって」

「状態異常は厄介だね。錆び取りは工房じゃできないし」

「あ、そうなんだ」

「ん? うん。試してないのかい?」

「あーなんというか」


 あの草原のことは話してもいいのだろうか。

 クラウンがあそこに辿り着いてるならいいが、まだ見たことがないならネタバレになるかな。


「こう、なんか……大円盤の方角って行ったか? 向こうの崖の方でモンスターに遭って」

「崖?」


 クラウンが首を傾げた。やばいネタバレしたか⁉

 背筋が冷えるような気分になる俺だが、クラウンは驚いたように顎へ指をあてる。


「あの崖か。もしかしてサウス君はゴーレムへ挑んだのかな」


 今度は俺が驚く番だった。


「お……知ってる?」

「ああ」

「……あーよかった。ネタバレにならずに済んだ」


 胸をなでおろす俺にクラウンが微笑む。


「はは、お気遣いありがとう。だけど私達はゴーレムも倒しているし、その先も知っている。そんなに気遣わなくても大丈夫さ」

「マジか。というか私達?」

「たまたま集まった六人で円盤の方へ進んでみよう、となってね。まあゴーレムを撃破した先で全滅してしまったんだけど」


 俺が一番乗りじゃなかったのか……まあ最初にログインしたわけでもないしな。


「じゃあ隠す必要もないか。俺もゴーレムは倒したけど、その先の草原でいきなり糸が切れてさ。その後鷲みたいな鳥に高台から落とされて。で、ここから今出てきた」

「……今?」

「だから今度こそあの大円盤に行ってやろうと思って」

「待ってくれ」


 いきなり顔の前に手をかざされた。

 思わずのけぞってしまう。指の隙間から見えるクラウンの目は何故か見開かれていた。


「すまない。えぇと、サウス君は」


 手を降ろしたクラウンは僅かの間考えを巡らせるように目を伏せる。


「もしかしてあれから一度も工房に帰っていないのかい?」

「え、ああ。時間がもったいないと思って」

「六時間以上は経っているはずだけど、あの崖はそんなに遠かったかな」

「途中でモンスターから逃げ隠れしてて……人形が回復できないって気付いたの戻れないぐらい進んでからだったし」

「ゴーレムとの戦闘はあの剣一つで?」

「いや剣は腕と一緒に壊れたから盾で殴り倒した」


 改めて口にすると俺アホなことやってるな。

 クラウンも頭上に「?」が見えるぐらいわかりやすく困惑している。


「ちなみにその口ぶりだと一人で倒したように聞こえるけれど」

「一応一人で……って言うとなんか自慢してるみたいだな」


 ソロに拘ってるわけでもないんです。単に流れでそうなっただけで。


「そうか……はあー」


 クラウンは感心したようにため息を漏らした。なんか居心地が悪い。


「あの、この質問は何なんでしょうか」

「あ、いや色々と驚いちゃって。ごめんね」


 慌てて謝ってくるクラウンだが、ふと小首を傾げた。


「今度こそ行ってやろう、と言ってたけど……まさか今から行くの?」

「ああ。一回行って慣れたから今度はもっと上手くやれる」

「でも腕が壊れたんだろう? もう直したの?」

「いやまだ。でも盾の使い方はわかったしノーダメージで行けば問題ない」


 心底疑問そうにクラウンは眉を上げる。


「どうしてそこまで急ぐんだい?」

「早く大円盤に行きたいから」

「……どうして?」

「俺、そのためにこのゲーム始めたんだ」


 PVで初めて大円盤を見た時の高揚を思い出して俺は笑った。


「……君もあの人達と似てるんだなぁ」


 僅かに目を細めたクラウンがぽつりと呟いた。

 よく聞き取れず聞き返そうとするとクラウンは唐突に人差し指を立てた。


「だけど流石に腕一つ壊れてそのまま行くのは駄目だろう」

「いや今度こそいけるって」

「私達は六人で挑んで一人も草原を出ることはできなかったんだ。流石になんの準備もなしに行くのは自殺行為だよ」

「……」


 クラウンが行けなかった。その言葉に少し頭が冷える。


「だから私の知ってる情報を提供しよう。色々と聞き出してしまったしね」


 俺が言い淀んだ隙にとんとクラウンは自分の胸を叩く。


「それは、ありがたいけど」

「ということで私の工房で話をしようじゃないか」

「いやちょっと待って」


 俺の返事も効かずクラウンは歩き出し――俺の工房のすぐ隣で足を止めた。

 待ってくれたのか、と思うよりも早くクラウンはそこの扉を開き綺麗なお辞儀と共に中を示す。


「どうぞ。私の工房へ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ