落語風下ネタ雑談
タイトル以上でも以下でもない
春眠暁を覚えず、なんて言葉が学のない私の耳にも聞こえてくるくらいに春の陽気ってのは人をリラックスさせちまうもんで。元々の意味は暖かいから起きられない、ってことなんですが、こうポカポカした日差しにいるとどんなに寝てから起きても睡魔が襲ってくるのは皆さんもご存知のところで。
コイツがもう抗えないのなんの、抗ってみようにも身体があっちにフラフラ、こっちにフラフラと言うことを聞きやしない。
それだけならまだしも、男には、男ならではの重大な問題がありやしてね。
「おい、弥七!どこに行ったんだい!こっちの店の手伝いをしてくれといつも言ってるだろ!」
「なんだって忙しい時に限ってあの坊主はどこかに行っちまうんだい。こんなことならあんな奴なんか雇うんじゃなかったよ。おい、弥七!」
「へい、旦那。お呼びでしょうか」
「お呼びでしょうかじゃないよ、この時間は忙しいから店の方を手伝えっていつも……、うわ!なんだいそりゃ!」
「なんだいそりゃってなんですかい、旦那?」
「なんで冷静に会話してんだい!いきり立ってんじゃないかい!お客さんに見られる前に前を隠すんだよ!」
「いや旦那。こう暖かい季節になるとどうにも眠くなりやして。これじゃいけねぇと眼をバッチリ開けて身体を動かしてるんですが、こっちは言うこと聞かねぇんですよ」
「旦那も同じ男ならあっしの言い分も分かってくれるでしょ?」
「いや、分かるけど堂々と人前に出てくるんじゃないよ!」
「もういいから、裏で倉庫整理でもしてな!」
「へい、旦那」
それからと言うものこの弥七、旦那が仕事を頼もうと呼びつけるたびに
「おい、弥七!」
「へい、旦那」
「今日は店開ける前に店先の掃除を先にやってくんな……、ってまたかい!!」
「いや、旦那。これはあれです。さっきまで寝てたもんで朝の標準機能ですよ」
「旦那も同じ男ならあっしの言い分も分かってくれるでしょ?」
「だからなんで堂々としてんだい!!そんなもの店前で見られでもしたら評判が落ちちまうよ!!」
「もういい!裏で品出ししてな!!」
「へい、旦那」
「おい、弥七!」
「なんでしょ、旦那」
「そろそろ店仕舞いの時間だ。先に片付けれるところから……ってまだ?!」
「いや、旦那。これはあれです。一日中、力仕事ばかりやってたから疲れ果てちゃって。いわゆる疲れマラです。」
「旦那も同じ男ならあっしの言い分も分かってくれるでしょ?」
「その言い方やめてくんない?」
「おい、弥七!」
「へい、旦那」
「明日の準備……、なんで?」
「いや、旦那。これはあれです。……純粋に若さです。」
「旦那も同じ男ならあっしの言い分も」
「うるさいよ!分かるよ!」
「でも仕事はやってもらうよ!!」
そんなことばかり続くもんだから旦那も気疲れが大きくなってきた。辞めさせようかと考えたが、それ以外は意外にも仕事をテキパキこなしていくもんだからやり辛いったらありゃしない。
そこで一計講じることとした。
「おい、弥七!」
「へい、旦那」
「いつもなんだかんだ言ってる私だが、お前がある一点を除いたらちゃんと真面目に働いてることは分かってる」
「そこで今日はお前に褒美を取らせてやろうと思う」
「なるほど、それでここ、吉原に来たってわけですね?」
「案外普通の反応だね。お前くらいの若さならここに来れるってだけで上機嫌になりそうなもんだけどね」
「ここでスッキリして明日からちゃんと働いてもらうよ」
「いや、旦那。これはあれです。一周回って落ち着いちまってるんです。」
「見てくだせぇ、手が震えてやがる」
「お、武者震いかい?」
「いや、旦那。純粋に恐れ慄いてビビっちまってます」
「しかし、旦那もこんなところに来るんですね。もっと真面目でお堅い人だと思ってやした」
「おい、弥七。お前も男なら分かるだろ?」
「へい、旦那」
「さて、どこにしようかね。お前の褒美に来てるんだから好きなところを言ってもいいだぞ」
「それなら旦那。あっしは旦那と同じでいいです」
「いやいや、お前の褒美だって言ったろ?あまりに高いところは駄目だが、それなりに懐も暖かいんだから変な遠慮するんじゃないよ」
「いや、旦那。厳密にはあっしは旦那のあとがいいです」
「なんだって?」
「あっし、人とやった後の女が一番いいんです」
「お、おう……」
おあとがよろしいようで