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茶がゆ  作者: チャラン
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最終話 朝の茶がゆ

 葬式は火葬後、骨を拾って終わった。


 その後、祖母を弔う宴会があったが、田所親子は早めに切り上げ自宅に帰った。


「ねえ母さん」

「なんだい?」

「崇叔父さんが言ってたんだけどね、おばあちゃんの遺体と一緒にいるのが怖かったの?」


 母親の初江は、苦笑して答えた。


「そのことかい。私も幸恵もお母さんっ子だったからね、だからおばあちゃんは早く自分のことを忘れさせようと思って、亡骸と一緒にいようとすると怖く感じさせたんだよ」


 初江はそこまで言って、一息ついてこう続けた。


「でも、本当に怖くなるとは思わなかったねえ」

「?」


 田所は母親がそう言った意味が分からなかった。


「いやね、おばあちゃんがもう少し元気な時に、私が死んだらあんた達は私の亡骸を見ると怖くなると思うよって言ってたんだよ。おばあちゃんもそうだったらしいから」


 初江がそう理由を言ったので、田所にも意味がつかめた。


「なるほどね……そういうことがあるんだね。怖くなるか……」


 田所はそうつぶやいた。


 その日は疲れが親子共々出て、早めに二人とも床に就いた。




「田所さんお疲れ様です」


 柊は田所の机にお茶を置いた。


 休みが明けた後、田所はいつも通り出社した。休んでいた間に仕事が山積していたようで、机の上には書類が積み上がっている。


「ありがとう、いただくよ」


 田所は作業を止めて、お茶を取った。


「休憩は取った方がいいですよ。いくら休んでいる間に仕事が溜まったからといって……」


 柊は心配そうだった。その気持ちを察してか、田所は笑いながら答えた。


「まあ、幾らか減ってきたよ。コツコツやっていけば何とかなるさ」


 そう言うと、また田所はお茶をすすった。


「それはそうと、今日も朝田島のお茶だね」

「気付きました? もう、会社のお茶は朝田島のものを使おうと決めたんです。おいしいから」


 そこまで言って、柊ははっと気付き、


「すみません……。お祖母様のことはご愁傷でした……」


 と顔を沈めて言った。


「いやいや、いいんだよ柊さん。祖母のことはしょうがないんだ、寿命だから」

「でも、残念ですね……」


 田所はうなずいた。


「それはそうと柊さん、君はお母さんっ子かい?」


 柊は一瞬きょとんとしたが、


「そうかも知れません、今でも実家にいますから」


 と答えた。


「僕もそうだよ。父がもういないから、特に母が気になるね」

「田所さんはそうでしたね……」

「で、お母さんっ子でも、あまり考えたくないことだけどいずれ母親とも別れなければならない日が来るよね?」

「ええ、私もたまに考えることがあります」

「うん、その離別の時に、母親は自分の死を怖がらせて、お母さんっ子だった子供達と早く別れさせようとするらしいそうだよ。子供は母親の亡骸を見るのが怖くなるらしい」

「えっ! そんなことがあるんですか」


 田所は柊の驚いた様子にうなずいて答えた。


「いつまでも、自分にこだわってはいけないという母親の配慮なんだろうね。不思議なもんだね」


 田所は朝田島産のお茶の残りを飲みほした。




 ある日の休日。


 祖母のこともおおよそ済んだ田所家では、またいつもの通りの日常が送られていた。


 その日の田所は近所へ釣りに行こうとしていた。それに合わせて、母親の初江は休日にも関わらず早めに朝食を用意した。


「母さん、今日は茶がゆにしてくれないかい?」


 息子の言ったことを意外に思った初江はまじまじと田所を見て、


「どうしたんだい? 珍しいことを言うじゃないか?」


 と言った。


「まあたまには食べてみようかなと思ったんだ」


 そう答えた田所に、初江は笑みを浮かべながら茶がゆをついでやった。


「母さん」

「なんだい?」

「いや……なんでもないよ」


 田所はさらさらと茶がゆを掻き込み、釣り支度を済ませて外に出た。


 絶好の釣り日よりだった。


                                 おわり

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― 新着の感想 ―
[一言] 子どものころ、祖母が好んで食べていたもの、もっと言えば両親が好んで食べていたものが、あまり美味しそうに思えなかった。 ひとくち食べてみなさい、と小皿に取り分けられたりするので、一応は口にして…
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