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茶がゆ  作者: チャラン
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第三話 緊急の着信

 田所親子はその日のうちに、祖母の家から自宅に戻った。比較的、祖母が元気だったので安心したのもあったのだろう。


 その日の食卓はサヨリづくしだった。


「大漁だったね。刺身や焼き物にしても大分あるよ」

「親切なおじさんが居たからね。そのおかげさ」

「仕掛けを一本くれたんだってね。気さくなおじさんだね」

「うん、仕掛けだけであんなに変わるとは思わなかったよ。多分、海のことをよく知っている人なんだろうなあ」

「地元の漁師か何かかもね」


 田所はうなずき、食事を済ませた。


「ごちそうさま。食いきれないな」

「まだ休みがあるんだから、その内に食べればいいよ」

「そうだね」


 釣りと車での移動で疲れた田所は早めに自室に入り、就寝した。




 数ヶ月経ち、夏になった。


 田所は会社で無難に仕事をこなしながら、時折、朝田島の祖母の所へ様子を見に行っていた。祖母の体調は、かんばしいとは言えなかったが、それでも小康を保っていた。


「田所君、この作業工程のレポートをまとめておいてくれ」

「分かりました」


 その日も田所は勤務に励んでいた。


「じゃあやるか……」


 ノートパソコンを使い田所は黙々とレポートを作っていった。作業工程の細かい所まで目を配らないといけないため、作成はなかなか骨が折れるようだった。


 その内に、休憩時間になった。


「お疲れ様です」


 OLの柊がお茶を持ってきた。


「ああ、ありがとう」

「大変そうですね、そのレポート」

「大変だけど、まあでも書類の仕事だからね。現場よりは楽さ」

「いつも田所さんは現場を尊重してますね」


 柊がそう言うのを聞きながら、田所はお茶をすすった。


「現場の人がいないと会社は動かないからね。俺自身はホワイトカラーなのかブルーカラーなのか分からないような仕事をしてるけど。まあ、それはともかく……」


 田所はお茶を見た。


「気付きました? 今日のも朝田島のお茶ですよ」

「うん、やっぱりこのお茶が合ってるよ俺には」


 そう言って、残りのお茶を飲もうとした所で田所の携帯が鳴った。


「なんだろう?」


 着信は家からだった。見てすぐ電話を取った。


「どうしたんだい? 勤務中に」

「ああ、守。それがね、おばあさんがね」

「おばあちゃんが? 亡くなったのかい?」

「いや、亡くなってはないけど危篤だそうだよ。それで家に電話が掛かってきて、お前にも連絡したんだよ」

「そうか……。分かった、会社の人に言って今から戻るようにするよ」


 田所は電話を切った。


「おばあさんの具合が悪くなったんですか?」

「うん、危篤らしい」


 そういうと田所は一旦、ふうと大きな息をついた。気持ちの整理をつけるためだろう。


「課長と部長に言って、今からすぐ帰るよ」

「分かりました。気をつけて下さいね」


 田所はうなずいた後、上司に報告し帰り仕度を始めた。


(もってくれればいいが……)


 この一点だった。




 家に戻った田所は、仕度を早々にして朝田島へ向かった。祖母の家には無事に着いた。


「こんにちは、守です」


 家の戸に鍵がかかってないようだったので、田所は戸を横に引いて開けた。開けた後、叔母の幸恵が奥から出てきた。


「守君、急いで来たんだね」

「ええ、それよりおばあちゃんは?」

「朝田病院に救急車で運ばれてね、お父さんが付き添いで行ってるよ。あれから、連絡が来ないから、まだ大丈夫だと思うけど……」


 お父さんというのは叔父の崇のことだ。


 話を聞いて田所は、一刻を争うと思った。


「じゃあ、叔母さんも一緒に行きましょう」

「ええ、連れて行って」


 田所達、三人は車を飛ばし、島の県道沿いにある朝田病院に向かった。病院には十五分程で着いた。


「病室はどこと言ってました?」


 田所は叔母に訊いた。


「二〇三号室と聞いたから、二階に上がってすぐだと思うよ」


 三人は病院内に入り、急いで二階の祖母の病室に行った。


 病室は個室だった。


「守です。入ります」


 田所は返事を待たずにドアを開けた。ドアを開けると、意外な光景がそこにあった。


「守ちゃん、来てくれたんだね」


 危篤のはずの祖母がベットの上で上体を起こして田所に話しかけてきた。


「えっ! おばあちゃん、大丈夫なの?」


 当然、田所を含む三人は驚いた。付き添いで来ていた叔父の崇はそれを見て、苦笑しながら説明した。


「ばあさんは確かに心臓の発作で危篤状態だったんだが、一時間くらい前に奇跡的に持ち直してね。喋れるくらいになったんだよ」

「そう……。よかった……」


 母親の初江は胸をなで下ろした。


「あんたらには、たびたび心配かけるねえ。すまないね」


 祖母が田所達の方を拝みながらそう言うのを見て、田所は手で慌てて制した。


「いいんだよおばあちゃん。ほっとしたよ」

「すまないねえ」


 祖母は頭を下げて再びあやまった。


「何にしろ、危篤だったのは本当だから、もう少し皆でここに残って様子を見た方がいいと思うんだが……」


 叔父の崇はそう提案した。その提案に皆、賛成した。


「じゃあ、今晩は四人で病院に泊まりましょうか?幸い、個室にしては広い病室だし」

「守君、会社の方は大丈夫なの?」


 叔母がそう心配してきた。


「明日も休暇届けを出して来ているから大丈夫だよ。その次は土日だしね」

「そう、それなら皆でいましょうか」

「ありがとう、守ちゃん。迷惑かけるねえ」


 祖母がそう言うのに、田所は、


「何も迷惑じゃないよ。皆がいるから安心してね」


 と優しく答えた。

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