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茶がゆ  作者: チャラン
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第二話 サヨリ釣り

 次の日の早朝、田所と母親は用意しておいた荷物と共に車に乗り込み、朝田島へ向かった。


 一時間半程、車を走らせた後、朝田島の祖母の家に無事着いた。


「ごめん下さい」


 家の呼び鈴を押した。


「はい」


 祖母の声ではない、女性の声で返事が返ってきて、家の戸が開いた。


「あら! 守君! 初江姉さん! 久しぶりだねえ」

「ご無沙汰しています」

「しばらくだったね」


 出てきたのは叔母の幸恵だった。長年、叔母夫婦が田所の祖母と住んでいて、祖母の世話をしている。


「まあ、とにかく上がってよ。おばあちゃんも喜ぶよ」

「その、祖母の様子を見に来たんです。具合はどんなですか?」

「今は調子がいいみたいよ。先月は病院に居たんだけどね。心臓が弱ってたみたいで……」


 田所も母の初江もそうだろうというような表情で話を聞いていた。


「家に戻れるまで、元気になったんならまず良かったよ。守、顔を見に行こう」

「そうしてやってよ、奥で休んでるから」


 叔母に通され、田所親子は祖母が休んでいる寝室に入った。




「おや、よく来たねえ。守ちゃん元気だったかい?」


 寝室の祖母は起きていた。ただ、体が弱っているため、顔色は優れないようだった。


「久しぶりに島の空気を吸ってみたくなってね、来てみたんだよ」

「そうかいそうかい、初江、あんたも変わりないかい?」

「ええ、大丈夫よ」


 祖母はそれぞれの返事を聞いて田所親子に笑いかけた。


「それなら良かった、変わりないのが一番だよ」

「俺達のことはいいとして、おばあちゃんはどうなんだい? 最近まで入院してたんだろう?」

「ああ、私のことならぼつぼつにしかならないよ。年が年だしねえ。いつまで家で養生できるかも分からないねえ」

「おばあちゃんも年だからね、私も孫がいてもおかしくない年だし……。そう言うのも無理はないねえ」


 母親の初江は仕方がなさそうにそう言ったが、表情はさみしそうだった。


「あんまりそう言うことを言わないで、気長に養生してよ。また元気になるかも知れないから」


 田所は祖母を元気づけようと、少し大きな声で励ました。田所も幼い頃、可愛がってもらった記憶があるだけに、できるだけ長く祖母に生きて欲しいという気持ちが強く表れていた。


「守ちゃんがそう言うのなら、もうちょっと生きないといけないかね」

「もうちょっとと言わずに何年でも長生きしてよ」

「ふふふっ、まあできるだけ頑張ってみるよ」


 そう田所の祖母が言った後、少しして、叔母の幸恵がお茶を運んできた。


 朝田島産のお茶を飲みながら、またしばらく四人で話していた。




「じゃあ、俺はちょっと釣りに行って来るよ」

「気をつけて行っといで、今は犬崎埠頭でサヨリがよく釣れるよ」


 見送りに出てくれていた、叔母の幸恵がそう教えてくれた。犬崎埠頭は祖母の家から、車で七分程で行ける、近場になる。


「そうなの? じゃあ、犬崎で遊んでくるかな」

「適当な所で帰ってくるんだよ。海に落ちないようにね」

「分かってるよ。行って来る」


 田所は犬崎埠頭へ向かった。


 埠頭にはすぐ着いた。波も穏やかで潮も満ちて来ていた。釣りをするのには良いコンディションだった。


「よし、サビキでサヨリを引っかけてみるか……」


 田所はそう言うとサビキ用の仕掛けを竿にセットし、釣りを始めた。撒き餌も多く用意している。


 釣り糸を垂らしてすぐにアタリがあった。引き上げるとサヨリが擬餌バリに二匹ほどかかっていた。


「よし! 調子がいいぞ。晩のおかずにはなりそうだな」


 田所が一人言をいいながら釣っていると、一人の他の釣り人が話しかけてきた。


「兄さん、上手いね」


 田所は声のした方を向いた。話しかけてきたのは、田所より二回りほど年上の中年の釣り人だった。


「サヨリだからね。結構簡単に釣れるよ」

「まあそうだが、兄さんは筋がよさそうだ」


 中年の釣り人がそう褒めるのに、田所は若干照れながら答えた。


「子供の頃から、好きで釣ってるからね。割と慣れてるからそう見えるのかな」

「はははっ、そうかい。結構やってるんだね」


 釣り人はそう言うと、しばらく田所の釣る様子を見ていた。


「……」


 田所はその釣り人を気にせず釣っていたが、しばらくしたある時、パタッとアタリが止んだ。


「釣れなくなったね」

「おかしいな。潮も悪くないんだけど……」


 田所は首をかしげた。その様子を見て中年の釣り人は自分の釣り道具の中からサビキの仕掛けを取りだし、


「これを使ってみるといいかもよ」


 と言って田所に差し出した。


「いいんですか? 根掛かりすると返せなくなりますよ?」

「いいんだ。これはあげよう」


 田所は少し迷ったが、


「ありがとうございます。使ってみます」


 と礼を言い、仕掛けを付け替えた。


 仕掛けを替えた途端、サヨリがみるみる掛かり始めた。これには田所も驚いた。


「これは凄い! おじさん、何かお礼をしたいんですが……」


 そう言って、中年の釣り人が居た方を見ると、すでにそこには誰もいなかった。


「あれ……。いつの間にかいなくなっちゃたな」


 仕方がないと思い、田所は釣りを続けた。釣りを終えるまでにかなりの数のサヨリを上げることができた。

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