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茶がゆ  作者: チャラン
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第一話 母の好物

「母さんはそれが好きだね」


 母親と朝食を取っている青年がそう言った。


「あんたのおばあちゃんもこれが大好きでね、お母さんも子供の頃から食べてたら、いつの間にか好きになったのよ」


 そう言った母親の手には、箸と茶碗が握られている。茶碗の中には茶がゆが入っていた。


「でも、それあまりおいしくないだろう?」


 息子にそう言われて、母親は苦笑した。


「あんたはあまり好きじゃないよね。でも、母さんにとってはおいしいんだよ」

「その茶がゆがねえ……」


 青年の茶碗には普通の白米がつがれている。その白米を、味噌汁をおかずにして青年はかきこんだ。


「俺には、普通の御飯の方がいいよ。どうも茶がゆは好きになれない」


 正直にそう答える息子に、母親は笑いながら返した。


「あんたは若いからそれでいいんだよ」


 青年は朝食を終え、その母親の返事には答えずに出かける仕度をし始めた。仕事に向かうようだ。


「じゃあ行ってくるよ」

「気をつけてね」


 青年が外に出ると、気持ちのいい、やわらかい風が吹いていた。




 青年は車で仕事場に向かった、車で移動するといってもそう遠くはない距離に会社はある。車を走らせて程なく勤務先の会社に着いた。


「おはようございます」

「おはよう」


 青年はいつものように、上司に朝の挨拶をした。まだ始業前で、勤務机に着いている人もまばらだ。


「おはようございます田所さん」


 青年の名前は田所 守という。話しかけてきたのは、三年程後輩の柊というOLだった。


「ああ、おはよう。柊さんはいつも早いね」

「皆さんに、朝のお茶を出さないといけないからどうしても早く来ないといけなくなるんですよ」


 そう言うと柊は田所の机にお茶をそっと置いた。


「ありがとう。大変だね」

「ふふっ、もう慣れましたよ」


 柊の微笑みに、田所も微笑を返しそのお茶を飲んだ。


「……ん?」


 お茶を飲みながら何かに気付いたようだった。


「どうしました?」

「いや……。家で飲むお茶と同じような味がするなと思ってね」

「えっ、そうですか? 今日使ったのは朝田島のお茶だったんですが」


 それを聞いた、田所はお茶をいったん置いて柊に笑いながら言った。


「偶然だな。母さんの田舎が朝田島で、家でもそこのお茶を使っているんだ。そうか、だからか……」

「そうだったんですか。偶然ってあるものですね。じゃあ、田所さんのお祖父さんやお祖母さんも朝田島にいらっしゃるんですか?」

「じいさんはもういないけど、ばあさんはまだいるよ。病院に出たり入ったりしてるけどね」

「そうなんですか……。年を取ると、どうしてもそうなりますね……」

「ああ、そうだね。まあしょうがないよ」


 そう言った後、田所は残りのお茶を飲んだ。丁度、始業の時間になり、柊も自分の持ち場に戻った。




 田所は会社での業務を終え真っすぐ帰宅した。


「ただいま」

「おかえり、疲れたろう」

「ああ、金曜日だからくたくただよ」


 田所は着ていた会社指定の作業着を脱ぎながら、そう言った。


「でも、明日から三連休だろう?」

「そうだね。まあ、しっかり休むよ」


 田所は一つ大あくびをした。顔にはやや疲れが見える。


「……疲れてるね。どうしようか」


 母親は何かを言いたそうだったが、言いだしにくそうにしていた。


「どうしたんだい? 言ってみてよ」


 田所は促した。


「……じゃあ言おうか。朝田島のおばあさんのことなんだけどね」

「うん」


 母親がそう言った時点で、田所には何を言いたいかが大体分かった。


「具合がどうか様子を見に行きたいんだよ」


 田所はうんうんとうなずきながらこう言った。


「じゃあ、明日でも車で行ってみよう」

「でも、守、あんた疲れてないかい?」

「一晩寝れば疲れも取れるよ。それに三つも休みがあるんだしね」

「そうかい、じゃあ明日行ってみようか」

「そうしよう、ばあさんに会った後、俺は釣りをしとくよ。母さんは、ばあさんの所に居るだろう?」


 息子がそう言うのに、母親は笑った。


「釣りがしたかったんだね、お前は?」

「あそこはよく釣れるからね」

「分かったよ。気の済むまで釣ったら、迎えに来てちょうだい」

「うん。じゃあ飯食って、風呂入って、寝るか」


 その夜、田所は早めに床に就いた。

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